Febri TALK 2023.07.17 │ 12:00

加藤達也 作曲家

①ディズニーの凄みを感じた
TV放送版の『ピーター・パン』

『ラブライブ!サンシャイン!!』や『Free!』など、多くのアニメファンが知る作品で音楽を担当し、「カトタツ」の愛称で知られる加藤達也。彼の人生を変えたアニメを紹介するインタビュー連載の第1回は、何度も見たという1953年版の『ピーター・パン』。中でも、現在は入手できないレアな吹替版に思い入れがあるという。

取材・文/森 樹

今では流通していないバージョンを繰り返し見た

――加藤さんは、幼少期から洋楽に触れる機会が多かったそうですね。
加藤 音楽の英才教育を受けてきたわけではないのですが、父がレコード会社で海外アーティストの宣伝を担当していたので、自宅にはレコードがたくさんありましたし、音楽番組やMVを見ることがすごく多かったんです。

――加藤さんが幼少期を過ごした80年代は、MTVの全盛期です。
加藤 そうですね。無意識のうちにデヴィッド・ボウイの曲を聞いていたり、あるとき東京ドームにコンサートに連れていってもらったら、じつはポール・マッカートニーのライブで「イエスタデイ」や「レット・イット・ビー」くらいしかわからないけど、かなりいい席で見せてもらえた……という環境ではありました。別のコンサートでも、知らない外国人にハグされて「怖いなぁ」と思いながら見ていたら、『ネバ―・エンディング・ストーリー』の主題歌が流れて、そこで「あれ、リマールだったんだ」と気づいた、なんてこともありましたね(笑)。

――なるほど(笑)。今回、そんな幼少期に何度も見た作品として挙げてもらったのが、1953年に公開された『ピーター・パン』です。ディズニー作品はよく見ていたのでしょうか?
加藤 家族はみんなディズニー作品が好きで、映画も見に行きましたし、当時、東京ディズニーランドが開業した頃だったのでよく遊びに行っていたんです。映画やビデオで見て没入できた世界が、ディズニーランドに行くと現実のものとして見られることになによりも喜びがありましたね。その中でもとくに印象が強いのが『ピーター・パン』なんです。

――音楽が印象的に使われている作品ですね。
加藤 そうですね。僕が見ていた『ピーター・パン』は市販のビデオではなくて、『東京ディズニーランドスペシャル』(1983年放送)という番組内で放送されていたものなんです。吹き替えもこのために用意されたもので、ピーター・パンの声を榊原郁恵さんが担当していました。

――ミュージカル版で主演していたことで有名ですよね。
加藤 そうなんです。榊原さんがピーター・パンを演じたミュージカルが少し前から上演されていたのですが(1981~87年)、TBSで放送されたこのバージョンは、脚本も現在リリースされている映像と違うんです。僕は録画したTBS版の『ピーター・パン』をセリフをおぼえるくらい繰り返し見ていたので、今のバージョンを見ると違和感しかなくて(笑)。

――おぼえているセリフと違う!と。
加藤 たとえば、フック船長がスミーを怒るときに、TBS版には「なんたるチーアの、サンタルチーア」みたいなギャグがあったのですが、他のバージョンにはないんです。そういう細かいセリフの違いがたくさんあるんです。

ディズニー作品は歌曲を聞くだけでシーンを思い出せる

――『ピーター・パン』の音楽が、現在の活動のルーツになっているところはありますか?
加藤 当時のディズニー作品や、また近年でも『アナ雪(アナと雪の女王)』をはじめ多くの作品で歌曲が際立った作りになっています。主題歌や挿入歌がまず素晴らしく、そのメロディを劇伴にもうまく落とし込んでいて、ミュージカル調に見せている。それは非常に好みですね。事実、『ピーター・パン』だけでなく、ディズニー作品は歌曲を聞くだけで特定のシーンを思い出せることが多い。まさにパブロフの犬のように。

――音楽が映像を思い起こさせてくれる。
加藤 ディズニー作品における、ミュージカル調のフィルムスコアリング(※映像に合わせて音楽を付けていく手法)の見せ方――もちろん、手法自体はバーナード・ハーマンが音楽を手がけたヒッチコックの時代からあるわけですが――は、自分の中にも深く根付いていて、音楽的な引き出しとしても非常に大きいですね。日本では「ミュージカルは苦手」という人も多いですが、母親がミュージカルのファンだったので、僕は違和感がまったくないんです。なので、ミュージカル作品を受け入れる素地が幼い頃からあったことが、今の仕事にも影響しているかもしれません。

――『ピーター・パン』の劇伴では、ひとつひとつの効果音もオーケストレーションで当てています。
加藤 あの時代ならではの凄みを感じますね。それしかできないという限定条件の中だからこそ生まれる発想力の強さを感じますし、刺激的に思います。今では検索すればいろいろな作り方を調べることもできますが、当時はそれができなかったわけですから。

――ちなみに、当時から音楽家になりたいという目標があったのでしょうか?
加藤 少年時代は音楽の仕事を志していたわけではなくて、ディズニーのイマジニアになりたかったんです。イマジニアというのは、ディズニーの世界観をさまざまなテクノロジーを取り入れながらテーマパークのアトラクションとして落とし込むなど、夢を実際の形にするクリエイター集団のことです。そこに憧れがあって、今でも生まれ変わったらなりたいと思っているくらいで(笑)。

――アニメーションで描かれた世界を、現実の世界に再現することに惹かれているわけですね。
加藤 そうですね。ディズニーランドの没入感って、それまでの遊園地やテーマパークとはまったく別物で、そこがすごく好きですね。

――現在のディズニー作品もよく見ているのでしょうか?
加藤 新しい作品も見ています。子供が『トイ・ストーリー』と『モンスターズ・インク』にドハマリしているので、僕も毎日何度も付き合って見ていて、セリフや音楽も自然と頭に入ってきます(笑)。音楽家として仕事をするようになって、作品を見る視点が『ピーター・パン』を見ていた頃とはどうしても違うわけですけど、そこで魅力を再発見することも多いです。歌曲のメロディラインもそうですけど、歌詞の素晴らしさにも驚くことがありますね。endmark

KATARIBE Profile

加藤達也

加藤達也

作曲家

かとうたつや 作曲家・音楽家。アップドリーム所属。幼少期からさまざまな音楽に触れる環境に育つ。東京音楽大学音楽学部では、作曲指揮専攻映画放送音楽コースを専攻。その際、三枝成彰、服部克久らに師事。2009年から本格的にアニメの劇伴を担当するようになる。近年の参加作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(藤澤慶昌と共作)、『TRIGUN STAMPEDE』、『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』などがある。

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