Febri TALK 2023.07.19 │ 12:00

加藤達也 作曲家

②ヒロイックな雰囲気が大好きだった
『聖闘士星矢』

「カトタツ」の愛称で知られ、『Dr.STONE』や『食戟のソーマ』などの作品で音楽を担当してきた加藤達也。彼の人生を変えたアニメを紹介するインタビュー連載の第2回は、『週刊少年ジャンプ』で連載されていたマンガが原作の『聖闘士星矢』。中でもオープニングの演出に大きな影響を受けたと語る。

取材・文/森 樹

「ペガサス幻想」のインパクトに惹き込まれた

――2本目は、ハリウッドで実写化もされた『聖闘士星矢』です。
加藤 同年代の人たちの大半は同じような気持ちを持っていると思うのですが、僕は「『週刊少年ジャンプ』で育った」と言える少年時代を過ごしていて、毎号隅々まで読んでいました。毎週月曜日に入手できたのですが、学校から帰ってくるときの足取りの軽さといったら(笑)。ただ、いちばん夢中になっていたのは『SLAM DUNK』や『るろうに剣心』が連載されていた時期で、『聖闘士星矢』の原作は単行本で読んだおぼえがあります。

――連載終了が1989年ですね。アニメの放送は1986年からです。
加藤 アニメが始まった頃が6歳くらいなので、原作よりもアニメを先に見ていました。単行本も全巻揃えていたので、アニメと原作に違いがあることを知るきっかけの作品でもありますね。「あ、描かれ方がこう変わるんだ!」と、アニメならではの「演出」に興味を持ちました。

――アニメの印象のほうが強い部分もあると。
加藤 何度も見ていましたからね。小学生の頃はマンガ家になりたかったので、いつも絵を描いていて。『ドラゴンボール』なども描いていましたけど、「憧れ」という意味では『聖闘士星矢』なんですよね。なによりも、オープニングテーマである「ペガサス幻想」のインパクト。イントロが始まって、ディストーションギターをバックに星矢たちがこちらに向けて走ってきて、ギュイーンとタイトルが出てくる。そこに「セイヤッ、セイヤッ……」とディレイ(残響処理)のかかったタイトルコールが流れるところに惹き込まれました。今はあまりやらないと思うんですけど、主題歌が流れている最中に効果音も聞こえるんですよね。

――最近では珍しいですが、当時はオープニングに効果音が入る作品がありましたね。
加藤 Aメロで星矢が聖衣(クロス)をまとうシーンがあるんですけど、そのときにガシャン! ガシャン! ガシャン!というSEの音が入るのがめちゃくちゃカッコよくて。その効果音を作っていたのが、当時スワラ・プロにいた今野康之さんで、のちに『ラブライブ!サンシャイン!!』でご一緒することになりました。

――まずはオープニング映像と楽曲に影響を受けたと。
加藤 そうですね。2代目のオープニング「聖闘士神話~ソルジャー・ドリーム~」も好きです。流れたら自然と熱くなってしまいます。もうひとつ好きなのが、セリフですね。ひとつひとつの技名もそうですし、それぞれが名乗るところとか。

――ケレン味のある演出が印象的です。
加藤 ケレン味もそうですし、ストーリーが大人っぽいところにも惹かれました。当時は小学生、しかも低学年なので、内容をきちんと理解していたわけではないと思うんです。それでも、あのヒロイックな雰囲気が大好きでしたね。

自分の中での「ヒロイックなもの」の指針になっている

――玩具やゲームでも遊んでいましたか?
加藤 そうですね。絵を描くのが好きだったので、聖衣の絵をトレーシングペーパーで写していたのですが、うまくできないときは母に頼んでいました(笑)。玩具だと、聖衣が装着できるおもちゃが好きでした。アニメを見ていたとき、聖矢たちが戦っている「コロッセオ」が発売されるというCMが流れたんです。それがめちゃくちゃ欲しくて、クリスマスシーズンだったから「サンタさん」におねだりしました。そうしたら当日に大きな箱が届いていて、喜び勇んで開けたのですが、中身はコロッセオだけで。キャラクターが入っていないんですよ(笑)。

――加藤さんだけじゃなく、「サンタさん」的にも中にキャラクターが入っているものだと思いますよね。
加藤 それがショックすぎて(笑)。たしかにパッケージをよく見ると「キャラクターは別売りです」と書いてあるんです。そのときに「別売り」という言葉の意味を思い知りました(笑)。あとはファミコンで発売された『聖闘士星矢 黄金伝説』もかなりプレイしましたね。パスワードで(発売元である)バンダイの住所を入れると、キャラクターがめちゃくちゃ強い状態でスタートできたのをおぼえています(笑)。

――キャラクターは誰が好きでしたか?
加藤 僕は紫龍ですね。物語としては、サンクチュアリ(聖域)が舞台の十二宮編がいちばん印象に残っていて、黄金聖闘士(ゴールドセイント)と黄金聖衣(ゴールドクロス)にはとくに思い入れがあります。今にして思えば、『死亡遊戯』的な、階層がひとつ上がると相手も強くなっていくシステムを、星座の設定にうまく落とし込んでいるなと感心しますね。

――オープニング、エンディング曲を含めて、音楽的な部分で影響を受けているところはありますか?
加藤 直接的な影響はないかもしれないですが、80年代後半から90年代初頭のアニメーションや『週刊少年ジャンプ』で連載されていたヒロイックな作品を浴びるように見ていたので、自然とケレン味が養われているところはあると思います。それは作家としての強みになっているというか、自分が担当した『めだかボックス』や『食戟のソーマ』、『Dr.STONE』の音楽には、少年時代に培(つちか)われたヒロイックなものに対するひとつの指針が生かされていると思います。

――ヒロイックな物語に対する無意識レベルの刷り込みがあると。
加藤 引いては日本のアニメ全般におけるアピールポイントにもなっていると思います。劇伴を担当する人間としても、そこをひとつの「推しポイント」として考えていますね。最近は日常を描く作品やスポーツものの音楽を担当することが多くなりましたが、自分のルーツを考えると『聖闘士星矢』にたどり着きます。endmark

KATARIBE Profile

加藤達也

加藤達也

作曲家

かとうたつや 作曲家・音楽家。アップドリーム所属。幼少期からさまざまな音楽に触れる環境に育つ。東京音楽大学音楽学部では、作曲指揮専攻映画放送音楽コースを専攻。その際、三枝成彰、服部克久らに師事。2009年から本格的にアニメの劇伴を担当するようになる。近年の参加作に『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(藤澤慶昌と共作)、『TRIGUN STAMPEDE』、『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』などがある。

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