Febri TALK 2022.05.04 │ 12:00

水島精二 アニメ監督/音楽プロデューサー

②キャリアをつないでくれた
『トップをねらえ!』

『機動戦士ガンダム00』『D4DJ First Mix』など、数々の人気作で知られる水島精二が影響を受けたアニメを語る全3回のインタビュー連載。第2回は庵野秀明監督の傑作OVAをピックアップ。憧れるが、違う作り方しかできない――そう語る作品から、何を受け取ったのか。

取材・文/前田 久

「アニメで、こんなに面白くてアツいフィルムが作れるんだ!」って感激した

――2作目は『トップをねらえ!』。第1回でも名前の挙がった、庵野秀明監督の初監督作品ですね。
水島 専門学校を出たものの、やはりこれといった目標が見つからないまま、先輩の伝手で履歴書を受け取ってくれたアニメの撮影会社に入ることになったんです。でも、ある時期、アニメの作品数がガクンと減って、そのあおりで給料も減って「この業界を辞めようかな……」と思っていたんですよ。そんなとき、同じ高校からアニメ業界へ進んだ友人のアニメーター、田中良くんが「面白いアニメがあるよ」と言って見せてくれたのが『トップをねらえ!』でした。作品のあらゆるディテールに庵野さんが好きなものがストレートに出ていて、それでいてエンタメとしてもめちゃくちゃ面白く成立している。「まだアニメで、こんなに面白くてアツいフィルムが作れるんだ!」って感激したんです。

――それで「自分でもそういうフィルムを作りたい」と思った?
水島 いや、そうじゃないんです(笑)。自分じゃなくて、あくまでアニメ業界に期待が持てたんですよね。こういうアニメが出てくるなら、業界に踏みとどまってもいいかな!みたいな。

――アニメ業界に残るきっかけになったわけですか。
水島 そう。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と同じく、監督のこだわりが詰まっていて、他のスタッフも楽しそうに作っていてね。ここで活躍したアニメーターの皆さんは、今でも業界の一線で活躍していますよね。最終話だけ白黒にしたり、映像に対する心意気というか、他のアニメではやらないようなことを積極的にやっていたのにも痺れました。しかもそれは、あくまで庵野さんの中にあるエンターテインメント性の現れというか、「お客さんを楽しませよう」といろいろ考えた結果として、変わったことをやっていると感じたんです。ちなみに、庵野さんがこの作品に岡本喜八監督への愛を込めていたと知ったのは、ちょっとあとのことでした。それを知って盛り上がった勢いで、オマージュのさらにパロディをやったのが『バトルアスリーテス大運動会』で僕が参加した回(第23話「復活の日」、ミズシマセイヂ名義で絵コンテ・演出を担当)です。さらにいうと、『トップをねらえ!』に出てくる宇宙怪獣は『機動戦士ガンダム00』の劇場版で出てきたELSの元ネタですね(笑)。

――明確に自作に影響があった。
水島 ただ、そうした個々の影響を抜きにしても、自分がフィルムを作るとき、どれくらいエンタメとして人を楽しませられるかの指針になっている作品です。でも、1本目の『ビューティフル・ドリーマー』も、2本目の『トップをねらえ!』も、「こんな作品を作ってみたい」という気持ちはなくはないけど、その才能が自分にはないとわかっているから、違う作り方をしなきゃ……と、いつも考えているんですよね。指針といっても、そういう存在です。

「お客さんを楽しませよう」と

他のアニメではやらないことを

積極的にやる心意気に痺れた

――庵野監督とはその後、お仕事でご一緒していますよね。
水島 そうですね。庵野さんに限らず、その頃すごいと感じていた作品に参加していたスタッフの皆さんとは、その後、お仕事をご一緒できる機会がけっこうありました。『うる星やつら』にも『トップをねらえ!』にも参加している西島克彦さんからは、親しくなったあとで「ガンバスターの腕を組んでいる絵は、あの腕の太さで考えたら絶対に組めないのに俺が無理やり描いたんだ。俺じゃなきゃ描けなかったね(笑)」みたいな自慢話を聞いてうれしかったなあ。庵野さんからの直接の依頼だったそうですよ。

――水島監督は昔も今も、お仕事のつながりを大切にしている印象があります。
水島 そうかもしれないですね。専門学校時代、作画志望の同期のスゴさで挫折した……みたいな話を前回しましたけど、その頃も、仕事を始めたあとも、すごいアニメーターたちと何かと縁があって、そのことが結果的に自分のキャリアにとってプラスになってくれた。同世代に中村豊くんがいたり、大塚健くんをはじめとするスタジオへらくれすの面々がいて、アニメーターを介してアニメーターと知り合えたりもしてね。うまく言えないけど、そうやって人のつながりというかたちで、押井さんや庵野さんの作品から何かを受け継いで来た感覚があります。でも、好きなものを入れ込む作り方そのものは真似できなかったなぁ、ホント……。

――でも監督、初監督作の『ジェネレイターガウル』ではやっていますよね?
水島 ああ!! そうか!! 言われてみれば『ジェネレイターガウル』はたしかに好きに作っていた。あの作品は、アニメーターのオグロアキラさんが提出したペラ一枚の企画書に、シリーズ構成・脚本のきむらひでふみさんと僕で肉付けをして作品のかたちにしていったんだけど、タイムパラドックスものにしたのも、主人公たちが『スタートレック』の艦隊服みたいな衣装を着ているのも、どっちも僕が当時好きだったから。他の部分も、あれは好きにやっていたね。そうか、あの作品でやりきって燃え尽きたんだ。いやー、びっくり。やれてたじゃん、過去の俺!(笑)

――まさかのどんでん返しですね(笑)。
水島 37歳以降、『鋼の錬金術師』を起点に物事を考えるようになっていてね。あの作品で、基本は「大人の仕事」をしつつ、その中でちょっと奇を衒(てら)ったことをやるような、今の自分の監督としてのスタイルに近いことを始めたんです。それと同時にアニメだけじゃない、違うジャンルにもつながるような活動も始めて、それが広がって、事務所に所属して活動したりしている今の自分の立ち位置がある。そういう手広い感じが「水島精二」のパブリック・イメージだという意識があるし、実際、世間からもそう見えているはず。でも、その前にしっかり、初期衝動に突き動かされた濃い作品をやっていましたね。今日、この取材で気づきました。endmark

KATARIBE Profile

水島精二

水島精二

アニメ監督/音楽プロデューサー

みずしませいじ 1966年生まれ、東京都出身。アニメーション監督、音楽プロデューサー。主な監督作品に『鋼の錬金術師』『大江戸ロケット』『機動戦士ガンダム00』『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』『D4DJ First Mix』など。

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