Febri TALK 2023.03.20 │ 12:00

米たにヨシトモ アニメーション監督/演出家

①手塚治虫の描いた「絵」に惹きつけられた
『ふしぎなメルモ』

『勇者王ガオガイガー』をはじめ、数多くの作品を手がけてきた米たにヨシトモ監督に、影響を受けたアニメについて聞くインタビュー連載。第1回でピックアップするのは、幼少期に深く心に刻まれたという手塚治虫原作の一作。「今でも忘れられない」と話す、その魅力とは?

取材・文/宮 昌太朗

武藤礼子さんの演技が今でも忘れられない、これはもう初恋ですね(笑)

――1本目は手塚治虫原作の『ふしぎなメルモ(以下、メルモ)』です。手塚作品に触れたのは、マンガが先だったのでしょうか?
米たに 同時期くらいだと思うんですが、強く影響を受けたのはアニメですね。手塚先生のアニメが大好きで、『鉄腕アトム』も再放送で見ていましたし、日本で初めてカラーで放送された『ジャングル大帝』もよく見ていました。自分は東京の下町・根津出身なんですけど、地下鉄一本で行ける大手町に逓信(ていしん)総合博物館があって、そこでときどきやっていたアニメの上映会によく足を運んでいて。『メルモ』も、その上映会でたびたびかかっていたんです。

――なるほど。
米たに 小学生だった当時はビデオデッキが各家庭に1台あるような時代ではありませんでしたし、大きなスクリーンで見られるというので、よくひとりで通っていたんです。今は修正されたリニューアル版になりましたが、もともとは武藤礼子さんがメルモの声を演じていて、それがすごくよかったんですよね。メルモはミラクルキャンディを舐めて、成長したり若返ったりするんですが、大人の声も子供の声も魅力たっぷりに演じ分けていて。リニューアル版の川村万梨阿さんも決して悪くないんですが、武藤さんのファーストインパクトが今でも忘れられないんです。これはもう初恋ですね(笑)。

――メルモのどこに、それほど惹きつけられたのでしょうか?
米たに 声はもちろんですけど、しょっちゅう裸になるんですよ(笑)。絵も手塚先生がご自身で描かれたものがたくさん使われていて、原画だけでなくイラストもいっぱい出てくるんです。画用紙に水彩で描かれた原作者の絵が1話につき何十枚も使われていて、とても魅せられました。原作マンガにも出てこない新規の絵をアニメのためにわざわざ描き下ろしていて、それが素晴らしかった。

――「しょっちゅう裸になる」という話がありましたが、メルモには少しセクシーな要素がありますね。
米たに 大人の姿はけっこうセクシーですけど、小学生のメルモは本当にかわいいんです。しかも、生物学的な男女の違いであったり、どうして子供が産まれるのか?という壮大な生命の歴史を、ちゃんと医学にのっとって説明するので、いやらしい感じがない。

――たしかに、学習アニメ的な側面がありました。
米たに しかも押しつける感じではなくて、丁寧に優しく語ってくれる。もともと手塚先生は『アポロの歌』で「性」をテーマとして扱っていて、そこでも戦争や死、性について真面目に語られているんです。小学生のときに読んでいたんですが、『アポロの歌』のあとに幼い少女がママになる『ママァちゃん』という作品を学年誌に描かれて、これが改題されて『メルモ』になる。つまり、『アポロの歌』を子供向けに落とし込んでいくと『メルモ』になるんだということを、リアルタイムで追いかけながら体感できたんです。じつは自分の監督作『ベターマン』は『メルモ』の影響を受けて構成した作品で、「こういうものをやりたい」と思って、作品の中に生体医工学としての性の要素を取り入れたんです。

現在まで受け継がれている手塚作品の魂

――米たにさんから見て、手塚作品の魅力はどこにあるんでしょうか?
米たに マンガの可能性を魅せてくれるところでしょうか。それこそ現代のマンガも、手塚先生の手法や発想を引き継いでいたりするわけです。今日、たまたま『チェンソーマン』のTシャツを着てきたんですが(笑)、この作者が数々の映画作品のテイストを随所に取り入れるなんてことも、すでに手塚先生がやっていたりする。恐怖マンガや劇画も手塚作品に対抗するために発展したジャンルです。そういう意味で、手塚先生の影響力や遺された作品作りの魂は現在でもいろいろな作品に受け継がれているんだな、と。

――マンガの可能性を切り開いていくところが、手塚作品の魅力だったわけですね。
米たに 『火の鳥』の未来編を読んだときに「マンガって、ここまでのことができるんだ」と思ったんです。人類の滅亡から新たな生命の誕生まで、紙とインクを使って一冊で描き切ってしまった。その手腕に感動しました。付け加えると、『メルモ』って『火の鳥』のスピンオフなんです。『メルモ』のアニメ第1話では、火の鳥が産んだ金の卵から赤いキャンディと青いキャンディを作る。なので、ふたつの作品はちゃんとつながっているんですよね。皆さんも『メルモ』を見るときには、ぜひ『火の鳥』のシリーズだと思って楽しんでいただきたいなと思います(笑)。

――あはは。
米たに あのキャンディも、歳を取ったり若返ったりするだけじゃなくて、配分を調整することで遺伝子に刻まれた古代の情報を読み取って別の生き物になることができる。これはすごい発想ですよね。それこそメルモは鳥になって空を飛んだりもする。あと、メルモの弟がカエルになってしまう話があるんですけど、カエルはキャンディを食べられないから、なかなか元に戻せない。どうするのかな?と思っていたら、キャンディを蒸気にしてそれを吸わせるんです。ちゃんと科学的なんですよね。いろいろウソもありますけど、なんだか納得させられてしまうんです(笑)。

――今でも記憶に残っているエピソードはどれでしょうか?
米たに たくさんあるんですが……。最終回の少し前に、ボートに乗っていたメルモが川の激流に流されてしまって、このまま行くと滝に落ちてピンチ、というエピソードがあるんです(第24話「恋人がいっぱい」)。そこでメルモのことが好きな3人の男の子が助けようと泳いでいくんですが、その描写が、精子が卵子にたどり着くイメージと重ね合わされるんです。それを見たときは「こんなこと思いつく!?」と本当に感心しました。そしてメルモは結果的に、最初にたどり着いて助けてくれた男の子と結婚するんです。昨今では『はたらく細胞』のような作品に受け継がれていていますが、押しつけではなく、見ている人がさりげなく人生に応用できるようなアニメが作れたら、と思いますね。文学だと比喩表現って、たくさん使われています。アニメでもリテラシーを駆使して深い意味を把握できれば、人生の彩(いろどり)が増すんじゃないかな、と。そう思うんですよ。endmark

KATARIBE Profile

米たにヨシトモ

米たにヨシトモ

アニメーション監督/演出家

よねたによしとも 1963年生まれ、東京都出身。東京デザイナー学院を卒業後、タイガープロダクションに入社。監督・演出家として数多くの作品に参加する。主な監督作に『笑ウせぇるすまん』『勇者王ガオガイガー』『ベターマン』『BRIGADOONまりんとメラン』『食戟のソーマ』、『ザ☆ドラえもんズ』シリーズなど。現在、監修をつとめるマンガ『覇界王~ガオガイガー対ベターマン~』がWeb連載中。

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