TOPICS 2022.12.14 │ 12:00

衝撃作『アキバ冥途戦争』の制作舞台裏 竹中信広プロデューサーインタビュー②

10月から放送中のオリジナルアニメ『アキバ冥途戦争』は、先の展開がまったく読めないながらも視聴者を惹きつける作品だ。仕掛け人である竹中信広プロデューサーは『ゾンビランドサガ』のあと、さらに異なる魅力を持った新しい作品を世に送り出した。インタビュー後編では「萌えと暴力」、そして「作品を生み出す」ということについて聞いた。

取材・文/細川洋平

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

人間誰しも社会の中で何者かを演じている

――オープニングとエンディングは曲のテイストが違って面白いですね。
竹中 じつは最初に発注して出来たオープニング曲は、第1話のゆめちの曲(『純情冥途ぶっころ主(しゅ)KISS』)なんですよ。ゴリゴリのメイドっぽい曲で「バキュンバキュン」といったメイドらしさを優先して作ってしまった。だから、それとは差別化を図りたくて出てきたアイデアがミクスチャー(※注:さまざまなジャンルの曲をあわせること)だったんです。歌詞もなくていいと考えていたのですが、増井監督から「サビ部分に歌詞がほしいです」という話をもらって、今の形になりました。エンディングは僕と音楽プロデューサーの佐藤宏次さん(SCOOP MUSIC)で「嵐子のブルースでいいんじゃないか」と話してすぐに決まりました。

――オープニング映像は10GAUGEの松木(大祐)さんが担当していますね。
竹中 P.A.WORKSの辻(充仁)プロデューサーのつながりで、『パリピ孔明』のオープニングもされていました。僕は絵コンテを確認させていただいたくらいで、完成までもう言うことなしでした。

――放送された第10話までの間でお気に入りのエピソードは?
竹中 もちろん、全話数気に入っています。ただ、企画を立てたときに個人的にやりたかったのは第1話と第6話~第7話のような抗争ものだったんです。第6話と第7話の脚本を担当されている米内山(陽子)さんは『パリピ孔明』ではシリーズ構成をされていて、『ウマ娘』でもお世話になっている方ですが、第6話から第7話のまとめ方もうまくいったのではないでしょうか。

――キャストの皆さんもキャラ崩壊をいとわない演技で迫力とグルーヴ感を生み出しています。
竹中 人間誰しも社会の中で何者かを演じているわけじゃないですか。今日こうして話している僕も演じている部分があると思うし。ただ、死に直面したり、本当の怒りに包まれたときって、それが崩れてしまうと思うんです。その振れ幅が欲しかった。「誰!?」となっても叫ぶときは叫んでほしいし、追い詰められたときに泣く人もいれば笑う人もいる。このアニメに関してはそこが大事で、そういった二面性を生めるといいなと思っていました。

――この作品はドライな手触りが全体を包んでいますよね。
竹中 第1話では派手なガンアクションがありましたけど、それよりむしろ「撃ち合うまでがドラマ」だと考えていました。乾いた空気感をしっかり物語の中で描いて「なぜ引き金を引いてしまうのか……」というところへ行けるといいなと思っています。

――そうなると、この世界で「萌え」は描かれているのだろうかと気になってきますが……。
竹中 いえ、僕の中では作品を通して圧倒的に「萌え」を描いた作品になっていると思っています。コピーにある「萌えと暴力について」というものから何のブレもない作品かなと。第3話(「メイドの拳、膵臓の価値は」)で嵐子とゾーヤが「かわいい」ということについて拳をぶつけている時点で「萌え」を描いていると思っていますから。

彼女たちの生き方を最後まで見届けてほしい

――そう聞くとさまざまな形の萌えが各話から見えてきます。さて、放送は残すところ2話となりました。
竹中 最後まで放送してくれるのか、今でもドキドキしています。世の中の反応次第では放送が取りやめになることもある。そういう不安を含んだ作品だとは思います。純粋にエンターテインメントとして見てもらいたい一方で、それだけではない意見があることも重々理解しています。ただ、業界関係者の方から面白いと言っていただけることが多くて、それは励みになりました。

――あらためて第11話と第12話の見どころをお願いします。
竹中 まずこのような作品を見ていただいて、すごくありがたいと思っています。あと2話でクライマックスを迎えることになるんですけど、なごみと嵐子の生き方、お仕事に向き合う姿勢、それから萌えに向き合う姿勢を、ちゃんとテーマに沿ってやったうえできちっと納得できる形で終えられたんじゃないかと。ぜひ彼女たちの生き方を最後まで見届けてあげてほしいです。

――ありがとうございます。
竹中 どうも真面目に答えちゃうんですよね。本当はもう少しふざけた感じでやりたいんですよ。「バイブスがこの作品を作りました」とか「気づいたら出ちゃってました」とか言いたい(笑)。

――真面目に答えてもらって助かりました(笑)。最後にもうひとつだけうかがいたいのですが、『ゾンビランドサガ』や本作など、話題性のある作品をプロデュースするときに意識していることって何でしょうか?
竹中 うーん……アイデアがどれぐらい出る企画を作れるかが大事だと思っています。どんな話を作っていいかわからないものって、どんだけ考えてもアイデアも膨らまないんです。でも、ゾンビにアイドルとか、メイドで任侠をやらせるとなったら、あれもこれもできるなって膨らんでいく。それが大事なのかなという気はしています。『ゾンビランドサガ』だったら「アイドルとして何を目指すか」ということがあって、そこにゾンビが紐づくことでアイデアが膨らんでいく。企画を立てるとき、僕の場合はスムーズに行くことがほとんどないんです。それこそ10年以上前から少しずつ考えているものが今の時代にハマッてきたかなという時間をかけてしっくりくるものが多い。考えている企画だけでいえば相当数あると思うんですけど、「これ面白くないですか?」と自信を持って説明できるところまでは時間をかけてひとりであれこれ考える。ずっと同じことを考えているわけじゃなくて、やらないといけない企画の脚本を読んでいるときに、急に別の企画とのアイデアを思いついたりするんです。なので、いろいろなストックを常に持っておくことが重要なのではないでしょうか。endmark

竹中信広
たけなかのぶひろ 株式会社Cygamesアニメ事業部 事業部長及び株式会社CygamesPictures代表。主なプロデュースアニメ作品に『ゾンビランドサガR』『神撃のバハムート』などがある。
作品情報

TVアニメ『アキバ冥途戦争』
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  • ©「アキバ冥途戦争」製作委員会