TOPICS 2022.08.25 │ 12:00

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愚かさや愛らしさがむき出しの『邪神ちゃんドロップキックX』

神保町を主な舞台に、アクの強い美少女たちのスラップスティックな笑いに満ちた青い日々を描く人気アニメも、気がつけば第3期。長い展開になってきた作品の魅力を、原点である「クズ」に絞って再確認してみたい。入門編も兼ねて。

文/前田 久

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

邪神ちゃんにうっすら尊敬の念が湧いてくる理由(わけ)

清々しいほどのクズ。誰が? 『邪神ちゃんドロップキック』の主人公、その名もずばり、邪神ちゃんのことである。

著者がライフワークと位置付けている原作コミックは、終わる気配など微塵も感じさせずに絶好調で連載中。TVアニメも今期放送中の『邪神ちゃんドロップキックX』でもって3期目。それだけでもこの不景気なご時世に素晴らしい事実だが、アニメはクラウドファンディングでも数々の伝説を打ち立て、シリーズが継続するほどにファンの熱量は高まり、さまざまな地域との連携も深まっている(詳細は各自ググってください)。

そうした社会的な達成を手にすると、えてして作品の内容は角がとれて丸くなったりするものだ。コアな音楽性が売りだったアーティストが、いきなり甘っちょろい売れ線のポップス寄りの曲を出したりするように。しかし、今作は相変わらずです。スラップスティックなキャラクターが身体を張ったゴアなギャグも、そこまでやっていいのか見ているほうが不安になるパロディも(2期の天ぷらになる邪神ちゃんは、マンガの神様をも恐れぬ展開で卒倒しそうなくらい笑った)、従来同様……いや、ますますエスカレートしている。登場する美少女キャラクターたちも、あいかわらずそれぞれにキャラクター性が濃くてかわいいうえに、新キャラもどんどん増えるという大盤振る舞い。今作の魅力は、そうしたさまざまな角度からいくらでも語ることができる。『X』になって毎話あんまり意味もなく初音ミクが登場するのホントすげーな、しかもそのシーンを公式が切り抜いてYouTubeにアップしてるの、わかりすぎてるだろ……とかね。

しかし、本稿ではシンプルに邪神ちゃん……その名の通り、魔導書の力で現代社会に召喚された、上半身は人間の美少女(全裸)、下半身は大蛇の姿をした邪悪な神の存在に絞って書いていきたいのである。

繰り返すが、清々しいほどのクズである。古書とカレーの街・神保町に住まうゴスロリ美少女・ゆりねが、たまたま手に入れた不完全な魔導書によって召喚された邪神ちゃんは、哀れ、もといた世界に帰ることができず、現代社会でゆりねに依存しながら不自由な暮らしを送ることになってしまった。一応そんな感じで、多少不遇ではあるのだが、それを補って余りあるほどのクズっぷりだから、見ていくうちに同情する気も次第に失せる。

だいたいアニメの主人公って、「クズ」と作中で呼ばれたり、公式サイトのキャラクター紹介でそんなふうに書かれていても、実際のところ意外とそうでもなかったりするじゃないですか。じつは情に脆いとか、弱いやつには優しいとか、真の「悪」に対しては立ち向かってみせるとか。

邪神ちゃんにもそういう部分はなきにしもあらずではある(友達的な人にはそこそこ優しいし、さすがに身近な人が病気で倒れれば看病くらいはする)。あるんだけど、未見の人が見たらびっくりするはずよ。たぶん、あなたの想像の3倍……いや、8倍くらいはクズだと思う。働かないし、金に汚いし、浪費癖あるし、慕ってくれる人をATM扱いするし、食い意地が張ってるし、下に見た相手はどこまでも見下すし、上に見た相手にはとことん媚(こ)びへつらうし。他にもクズなエピソードには事欠かない。

なによりヒモ同然のくせに、寄生先のゆりねちゃんに迷惑をかけ倒すだけに飽き足らず、あっさりと殺そうとするのがアカン。TVシリーズも3期まで来るとだんだん見ているこっちも感覚が麻痺してきてるけど、邪神ちゃんの殺意、ガチなんだよね。たまたま邪神ちゃんが信じられないくらいヌケサクなのと、ゆりねが若干人の域を超えてタフだから、どうにかトムとジェリー的な「仲良く喧嘩しな」の雰囲気で済んでいるだけで。「邪神」というのは伊達じゃない。繰り返される諸行無常。ああ、メビウスの輪から抜け出せなくて……。

しかし、不思議なのがそんな邪神ちゃんを見ていると、なぜかほっこりしてしまうのである。ホントなぜだろう? 見下して「自分はさすがにここまでは堕ちてないな」とゲスな安心を得ている……わけではないと思う。むしろ、うっすらと尊敬の念が湧いてきてしまうところがあるくらいだもの。倒れても倒れても立ち上がるその姿。ジョーも一歩も驚きの強さだよ。チェーンソーで上半身と下半身を切断されても、全身をミンチにされても復活するなんて、人間には真似できない。もうちょっと掘り下げると……人間、誰しもみな、大なり小なりクズなところがあるからかな、なんて思う。私だって、この原稿の締め切りを、編集さんに設定された期日より大幅にぶっちぎっているクズだし……(※ガチでシャレになってません)。それでもどっこい生きてる邪神ちゃんを見ていて、共感をおぼえ、励まされてしまう人が多いのではないか。

ようするに、邪神ちゃんの姿を見ているとどこか、人としての「業」を肯定されるような思いが湧いてくるわけですね。人の弱さ、みみっちさ、愚かさ……そんなものがむき出しで描き出されているのに、なぜか愛らしく感じられてしまうから。いや、邪神であって、人ではないけども。だから人は邪神ちゃんを崇め……はしないけど、愛でてしまう。そう思うのですが、いかがだろうか? 信じるか、信じないかは……あなた次第!endmark

作品情報

『邪神ちゃんドロップキックX』
好評放送中

  • ©ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキックX製作委員会