TOPICS 2022.04.28 │ 12:00

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異世界転生の魅力がすべて詰まった『転生したらスライムだった件』

スライムとして異世界に転生した元人間の主人公が、近隣の魔物を総(す)べつつコミュニティを発展させていく『転生したらスライムだった件(以下、転スラ)』。「なろう系」の代表作品ながらも、ご都合主義に特化しておらず、絶妙に抑制の効いた設定とストーリーは、異世界転生入門にうってつけの作品だ。

文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

悲劇と混乱が渦巻く現代だからこそリムルの「共存共栄」という夢がまぶしい

サラリーマンだった主人公・三上悟が不慮の事故で死んでしまい、気がついたら異世界でスライムとして転生していて……。『転スラ』は「異世界転生もの」、かつ主人公が無双する「なろう系」に属する作品。この手の作品は数が膨大で、嗜好に合わせてさらに細分化されているため、自分好みの作品を探すのがひと苦労なジャンルでもある。そんな中で本作は「異世界転生もの」や「なろう系」が持つ魅力のほぼすべてを兼ね備えており、これまでこのジャンルに触れてこなかった人や、ちょっと苦手意識がある人にこそオススメしたい作品と言える。ぜひこれをきっかけに沼にハマってほしい。

初心者に最適な理由はいくつかあるが、もっともわかりやすいのは主人公像だろう。「なろう系」の主人公は現実世界では不遇の身であることが多く、その思考はネガティブになりがちだ。それに対して『転スラ』の主人公・リムルは37歳の有能なエリートサラリーマン。部下からの信頼も厚く(37年間彼女ができたことがない点を除けば)、転生前は充実した人生を送っていた。つまり、物語開始時点で「成熟した大人」なのだ。だからこそ、異世界で手にした能力を自分の欲望のままに振るうことはしない。自分を慕う魔物たちを受け入れ、彼らの生活や幸せのために村を作り、近隣諸国との交易によって大きく発展させていく。そこに歪んだ感情やひねくれた打算はないので、多くの人が共感できるのがポイントだ。

その一方で、「なろう系」ならではの魅力も満載。主人公がバトルで無双する爽快感はもちろん、個性的なキャラクターたちが織りなすドラマ、異世界で頭角を現していく成り上がりストーリー、ほっこりできる日常コメディ、種族やスキル、魔法、進化といった厨二心をくすぐるゲーム系設定の数々……etc。これらの王道要素がまるっと楽しめて、しかもやりすぎていないのがいい。ともすれば、ただの妄想や夢物語に陥りがちなジャンルだけに「やりすぎない」というのはとても重要で、その点で『転スラ』はいい塩梅で抑制が効いている。リムルよりも強い魔物はたくさんいるし、強大な軍事力を誇る国も多く、国家運営は決してイージーモードというわけではない。さらにコメディやハーレム要素もしつこくなく、全体的にマイルドにまとまっていることも男女を問わずオススメできる理由だ。

以上を踏まえたうえで、最後に『転スラ』ならではの特徴は何かと問われれば、それはなんと言っても「会議」だろう。課題解決、今後の方針、諸国との交易、軍事戦略など、あらゆる局面で会議が行われる本作。それに付随するかのように、近隣諸国との国交や貿易、要人との交渉、客人への接待などのシーンもふんだんに描かれており、さながら「建国記」としても楽しむことができる。そして終始一貫しているのは、リムルは平和主義者であり、武力ではなく話し合いによる和平を望んでいること。リムルが戦うのは自己防衛や避けられない戦争時に限られている。武力による悲劇と混乱が渦巻く現代に生きる我々にとって、あらゆる種族を受け入れて共存共栄を目指すリムルの夢は、理想論ながらもまぶしく感じられる。

ただ、ひとつ注意しておきたいのは、夢の実現のためには相応の力(武力)も必要だということも描かれており、それは「力なき理想は戯言だし、理想なき力は虚(むな)しいだろ?」(第39話「ラミリスの報せ」より)というリムルのセリフに端的に表れている。夢や理想に酔いしれるだけではなく、リアリストであることも本作の屋台骨を支える大きな魅力だろう。endmark

TVアニメ『転生したらスライムだった件 第1期』
日本テレビ系各局他、全国31局にて好評放送中

作品情報

『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』
2022年11月全国公開

  • ©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会