東映アニメ版で感じた悔しさを反映した兜甲児の人物造形
――男性キャラクターでは、まず兜甲児が東映アニメ版に比べて理知的で頼りがいのある人物として描かれているのが印象的でした。
大河内 『UFOロボ グレンダイザー』の甲児って、いつもTFO(ティーフォー)に乗って負けてしまうじゃないですか。子供の頃、それが悔しかったんです。『マジンガーZ』が好きだったので「マジンガーが地下に隠してあるって言ってくれよ!」という『機動戦士Zガンダム』のカツみたいな気持ちで見ていました。だから今回、自分で脚本を書くとなったときに、マジンガーZに乗っていた時代をなかったことにしたくなくて、それを踏まえると、命懸けの戦いを何度もくぐり抜けてきたのだから肝が据わっているだろうし、そんなに馬鹿なはずもないだろう。そういう想像ですね。
――よくわかります。
大河内 加えたのはもうひとつ、甲児が大富豪ということですね。グレンダイザーに、地球の役人や軍人の指揮下に入ってほしくなかったんです。きちんとした組織に入ってしまうと、原作にあるロマンスやキャラクターの奔放さが失われてしまいそうで。『バットマン』じゃないですけど、富豪の所有物ということであれば、そういうことからはある程度自由でいられるなと。
――一方で主人公のデュークは、東映アニメ版以上にナイーブな感じに描かれていますが、彼の人物造形に関してはいかがですか?
大河内 シナリオを書く前に貞本さんの絵を見ていたのですが、その最初の印象は「マッチョじゃないんだ」でした。
柏木 東映アニメ版と言うか、デュークのパブリックイメージはマッチョ気味なタフガイという感じですけど、貞本さんが「今やることの意義、現代の王子像を考えるとマッチョには描けない」と言うんです。「当時の流行りでパイロットスーツ姿はプロレスラーみたいな体形だけど、普段の格好や豪ちゃん先生のマンガではわりとスリムなんだ」と。目尻の特徴的なデザインなどに顕著なのですが、永井豪先生のマンガを第一義にすることが貞本さんの美学なんでしょうね。じつは最初、東映アニメ版に寄せようというアプローチもあったんですけど、シナリオが固まり、本作にふさわしいかたちを模索していく中で今のデュークの姿になりました。
――貞本さんの絵からイメージを固めていったのですか?
大河内 いえ、そういうことではなくて、そもそも僕はデュークの魅力のひとつを「悩めるキャラクター」だと思っているんです。福田監督からのオーダーも含めて、今回の『グレンダイザーU』ではデュークに精神的な試練が襲いかかることになる。そういう意味でも、悩めるキャラクターであることはこのデュークの根幹になるだろうと。そうしてキャラクターを作っていくときに、貞本さんの初期稿を念頭に置いていたという感じです。
カサドは制作の中で大きく成長したキャラクター
柏木 絵から始まったキャラクターはカサドです。貞本さんが「『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー・ボルトンみたいな、サディスティックなキャラを出したい」と言って描いたキャラ案を、大河内さんが取り入れてくださいました。
大河内 最初のうちは「サド王子」という仮名で呼ばれていて、正式な名前が必要になったときに1文字足してカサドになりました。
――東映アニメ版に元になるキャラクターはいないということですね?
柏木 デュークの両親を殺した仇という同じ役回りなので、東映アニメ版のホワイター少尉からファミリーネームを取っていますが、キャラの起点としてはオリジナルです。初期のストーリー案の中に「スターカー騎士団に何人かの王子がいて、彼らで宮廷活劇みたいなことをやる」というものがあって、そのメンバーとして描かれたキャラが元になっています。
――デュークへの執着の強さが印象的です。
大河内 公式設定ではなく僕の勝手な想像ですけど、カサドって自分の田舎の星では、もっといいヤツだったと思うんです。でも、期待を背負って都会に出て来たら、性格も能力も出自も何もかもが完全上位互換なデュークという人と出会ってしまい、そこから変わっていったんじゃないかなと。
――魅力的な敵役だと感じました。
大河内 僕も好きなキャラです。オリジナルのアニメでは制作中にキャラが「育つ」ことがあって、彼はそのケースでした。貞本さんが「こんなキャラ」という小さなバトンを出して、それを僕が受け取って、(もうひとりの脚本担当である)樋口(達人)さんとかいろいろな人がつないでいく中で大きく太くなっていったイメージです。デュークとの対比も面白かったですね。樋口さんも気に入っていて、いろいろ使ってくれました。
柏木 福田総監督の最初の構想では、単なる残虐な敵として、第3話で死なせる予定だったんです。でも、キャラが成長した結果、終盤まで出て、最後も生死不明というかたちになりました。現場でも人気があって、スタジオの女性アニメーターたちも彼をいちばん描きたがっていましたね。
――最後に、全体を通して、リブートという部分で難しかった点はありますか?
大河内 リブートって「何を残して何を捨てるか」で悩むことが多いんですけど、それについては福田監督の愛という明確な指針がありましたし、貞本さんのイメージボードという手がかりもあったので、そういう意味では難しくはなかったです。オリジナルの脚本って、いつも地図のない旅をするような不安があるんですが、今回は、グレンダイザー、福田さん、貞本さんという三つの星が夜空に常に輝いていてくれて、立ち止まらず走りきることができたと思っています。
- 大河内一楼
- おおこうちいちろう 1968年生まれ。宮城県出身。1999年に『∀ガンダム』でアニメ脚本家としてデビューし、以後、多くの人気作品でシリーズ構成と脚本を務める。代表作は『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ストーリー原案・シリーズ構成・脚本)、『SK∞ エスケーエイト』(シリーズ構成・脚本)、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(シリーズ構成・脚本)など。