ほんの一瞬ですけど『オッドタクシー』を嫌いになりかけました(笑)
――作品全体の話に戻ると、本編の他に『Quick Japan』で前日譚が書き下ろされていたり、YouTubeで各話の間を描くオーディオドラマが配信されていたりします。こういったメディアミックスの展開は当初からあったのでしょうか?
此元 いや、じつはなかったんですよ(笑)。
平賀 脚本を上げてもらったあとに、前代未聞の量の書き下ろしを此元さんにお願いしています(笑)。作品の評判が良くて「ウチでも何かできないか?」とメディアからお声がけが増えたのもあり、サブコンテンツを充実させたいと。そうしたなかで、本編に入り切らなかったエピソードをプラスアルファする形で書き下ろしていただいています。それがオリジナル作品の良さだと思っていますが、数が増えすぎて、此元さんへの負担が予想以上に膨らんでいるという。
此元 そうですね。一瞬、ほんの一瞬ですけど『オッドタクシー』を嫌いになりかけました(笑)。
平賀 すみません(笑)。狙いとしては、作品の考察が盛り上がるイメージはあったので、それを補完するものを用意できればと考えていました。
――もともと本編で入れたかったアイデアやエピソードを、サブコンテンツで生かすような流れもあったのでしょうか?
平賀 ありましたね。ただ、本編とのつながりだったりサブコンテンツが作品を補完したりする流れの辻褄は、此元さんがほとんど合わせてくださいました(笑)。
此元さんとの仕事は「よくこんなことを思いつくな」ということの連続
――此元さんとの仕事はいかがでしたか?
木下 「よくこんなことを思いつくな」ということの連続だったので、刺激的でしたね。たとえば、第4話の「田中革命」のシナリオとか。
平賀 僕も、あれは話数が飛んだのかなと一瞬思いました(笑)。なので、最後にちゃんと本編につながったところで「ヤバい!」となったのをおぼえています。第3話まできちんと本編を掘り下げていたのに、急にバツンと違う話が入ってくる構成は衝撃でした。
木下 田中というひとりの平凡な社会人の人生を、小学生の頃から丁寧に描いて、社会人になってからどんどん闇落ちしてしまう顛末が見事に書かれていて。しかも、ちゃんと人間としての変化、ドラマが感じられるところには感動しました。最後に本編につながったのは本当に衝撃的で「これは間違いなく面白くなる!」とワクワクしましたね。
――此元さんは、田中の人物像からあの話を構成していったのでしょうか?
此元 正直、もうあんまり記憶がないですね(笑)。
木下 田中という平凡な名前から着想が始まったりするんですか?
此元 うーん、まったく思い出せない(笑)。
――(笑)。ちなみに、みなさんの想い入れのあるキャラクターはいますか?
木下 小戸川はやはり想い入れがありますね。小戸川に似た部分を自分も持っているし、彼に感情移入して作っていったので。あとは樺沢です。承認欲求だけで突き進んでタガが外れちゃう人ですけど、彼の気持ちもすごくわかる。僕はYouTubeをよく見るので、樺沢を描くのは楽しかったです。あと映像になってからキャラが立っているなと思ったのは、関口ですかね。脇役なのですが、ヤノに忠誠を尽くす真面目なヤンキーキャラがけっこう面白いなと。
平賀 僕は大門兄弟が好きなんですよ。弟のあの感じが他にいないですよね。バカっぽいけど小戸川が言うように鋭い部分もあるし、かわいらしい部分もある。『Quick Japan』の前日譚に彼らが登場するのも、僕のリクエストです(笑)。それくらい、彼らには愛があります。放送が始まってから意外だったのは、山本の人気が出たことですね。ちょっと地味めなキャラだと思っていたのですが、やり手っぽいのに上からも下からも挟まれるあの立場に同情が集まるのはわかります(笑)。
此元 僕も山本は好きですね。自分が脚本を書いていますけど、声も含めてあまりセリフを読んでいる感じがしなかったというか。山本という人がきちんとしゃべっている感じがしました。
――「このキャラを書いているときは筆が乗る」というキャラはいましたか?
此元 ホモサピエンスの柴垣ですね。僕もマインドが柴垣なんで。
平賀 ああ、わかる気がします。柴垣、ツッコミの内容もすごく面白いですし。此元さんの思いが、全部ではないにしろ部分的に入っているんだろうなと。
――世間はわかってくれない、みたいなマインドが此元さんのなかにも?
此元 そうですね。それもありますし、流行っているものの何が面白いのかわからないと悩んでいる一方で、それもこちら側がズレてるんやろなっていうのも理解している。その感じです。