――アムロ・レイという特異なキャラクターは、その後の安彦さんの作品において影響はありましたか？　たとえば、似た性格のキャラを登場させようとか、そういう意味ですが。
安彦　その後の作品といっても僕は寡作なほうで、『機動戦士ガンダム』以降も10年くらいはアニメをやりましたけど、数えるほどしか作っていないから。しかも、とくにこれまでにないものを作ろうとしたわけではなかったから、アムロのような特異なタイプを出す必要もなかったし、主人公は普通の少年だったり日本人だったりしていますけどね。

つまり、それだけロボットアニメの主人公像というものに嫌気がさしていたということでもあるんです。すごくいっぱいやっていたように思うけれど、実際はそんなに数はない 。『勇者ライディーン』と『超電磁ロボ コン・バトラーV』とか、それくらいでしょ？　もちろん、実際には世に出ていない企画もあるから、生意気にも僕の中ではけっこうな数をやっていた気がしていたんですよ。しかも、他の番組でもみんな同じような主人公ばかりだったから、なおさらそういうキャラクター像には飽き飽きしていたとも言えます。

――たしかに、1970年代は熱血キャラの主人公が多かったですね。
安彦　『マジンガーZ』の影響はかなり大きいと思います。それ以前だと『鉄人28号』であるとか、とにかく大ヒットした前例に沿って、それでいて新味も出すようにというのがスポンサーやテレビ局の意向でしたから、似たようなものになるのは必然ですよ。その傾向は今も同じようだけど（笑）。

――アムロの髪型は特徴的だなと思うのですが。
安彦　癖毛でね。僕は『にんじん』（※ジュール・ルナール著）という小説の装画をイメージしていて、赤味がかった縮れっ毛で、あまり陽気な性格ではない少年です。「『にんじん』みたいな子なんでしょ？」って富野さんにも言ったことがあるけど、そのときには何も文句は出なかったのに、わりと最近、何かの機会に「こんな縮れ毛にデザインするから作画が面倒で大変だ」みたいなことを言われてさ。今さら言うか、と（笑）。

――アムロは赤毛なんですね。
安彦　そうなんです。いろいろと妥協して茶色になっているけど、本来は赤毛としてデザインしている。僕が色紙なんかにチャチャっと描くアムロは赤毛にしていることが多いし、色味としてはかなり明るい赤茶色を使っていますね。赤茶色、あるいはオレンジ色っぽいとも言えるのかな。こうした外国人的な特徴とアムロ・レイという名前で、視聴者には「日本人ではない」というのが伝わりやすいと思っていました。そして当初、反応してくれた視聴者の方々には、こうした新しい要素もすんなり受け入れてもらえたように記憶しています。

――そうなんですね。
安彦　あとはテレビ局とスポンサーが、名古屋テレビとクローバーだったのも良かったと思います。これが全国ネットでスポンサーが最初からバンダイとかだったら、別のものになっていたかもしれない。そういう意味ではラッキーだったと言えるけど、逆に地方ローカル局で時間帯も悪くて不安な状況だったとも言える。ただ、僕は『機動戦士ガンダム』は新しいことをやるアニメで視聴率は最初からは望めないと考えていたし、電波に乗せてしまえばこっちのものだとも思っていたから、そういう意味での不安はありませんでしたけどね。