フラウやセイラに対する恋愛感情はなかったと思う
- 『機動戦士ガンダム』はロボットアニメの体裁をとってはいるものの、人間ドラマを描いた作品である。主人公であるアムロ・レイという少年は、周囲のさまざまな人間から影響を受けて大人へと成長していく。思春期の少年にとって女性は人格形成に大きな影響を与えるものだが、アムロの周囲にも多くの女性が存在している。幼なじみの少女から憧れの女性、そして運命の出会い――自身が演じるアムロに大きな影響を与えたこれらの女性キャラクターたちを、古谷徹はどう捉えていたのだろうか。
古谷 アムロに大きな影響を与えた女性キャラクターとはいっても、そう長いあいだ関係があったわけではないんです。シリーズ全体で見れば数話のゲストキャラであることが多いし、『機動戦士ガンダム』の場合は戦争ものということで、それがとくに顕著ですから。だから僕の考えるキャラクター像といっても、そこまで深く捉えていたわけではないし、いわゆる設定的な部分との相違はあるかもしれません。
■フラウ・ボゥ(CV 鵜飼るみ子)
古谷 幼なじみの少女ですよね。ご近所さんというか、アムロとは学校も同じだったと思いますが、何かと世話焼きの女の子ですね。生活力のないアムロにとってはお母さんのような役割でもあったのでしょうが、僕にとって現実的な実感はあまり湧かないですね。こんな食事の世話までしてくれる幼なじみの女の子って自分の人生ではいなかったし(笑)、男の子って基本的には男の子同士で遊ぶものでしたから。アムロは15歳でしたが、同年代の異性に対する興味はほとんどなかったのかもしれない。そういう意味ではフラウを恋愛対象としては見ていなかったでしょう。同じ年齢でも男の子のほうが幼いところがありますし、世話を焼いてくれるからそれに甘えてしまっていた部分は少なからずあったと思います。アムロが完全なマザコンにならずに済んだのはフラウがいてくれたおかげだと思うけど、恋人とか彼女というよりは家族としての感覚が強いんじゃないかな。ハヤトとフラウが急接近したときも嫉妬をするわけでもなく、自分の姉妹が恋愛しているような反応ですよね。『機動戦士Ζガンダム』ではハヤトとフラウは結婚しているわけですが、それも家族のこととして当然のように受け入れている雰囲気がある。フラウはずっとアムロに対して好意を持っていたようですが、アムロ自身はそれに気づいていたのかは微妙ですよね。最終回のセリフに「僕の好きなフラウ」というものがありますが、あれはアムロがフラウの好意に気づいたことを意味していると思います。鈍感で奥手だったアムロが、ようやくフラウに答えることができたのだろうと。それはアムロの成長を表しているし、ああいう言葉を使うことで、フラウに希望を持たせることもできたのでしょう。
鵜飼るみ子さんとは『機動戦士ガンダム』で初めてお会いしました。当時は新人だったと思いますけど、僕の中ではお姉さん的なイメージが強かった。僕がアムロを演じていたこともあって、どうしてもフラウのようなイメージだったし、見た目も少し似ているんだよね(笑)。