TOPICS 2023.01.30 │ 18:03

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第8回(前編)

第8回 アムロ・レイと女性たち

ときには憧れの対象として、またあるときは敵としてアムロに大きな影響を与えてきた女性キャラクターたち。今回はアムロ・レイ(あるいは古谷徹)の目線から、それぞれの女性キャラクターの印象を聞く。さらに、その役を演じた声優さんとの思い出やエピソードについても語ってもらった。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

■セイラ・マス(CV 井上瑤)

古谷 セイラさんは富野監督が書いた小説ではアムロとの関係がとても深いし、安彦さんの『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でもジオンのお姫様として象徴的な存在ですよね。でも、TVシリーズや劇場版の『機動戦士ガンダム』ではアムロとの関係はそこまで深くないし、とても美人なのに憧れる雰囲気はあまりなかったように思います。それよりもオペレーターとして下手くそなお世辞を言う人とか(笑)、気楽に無茶ぶりしてくる人という印象が強いんじゃないかとすら思えますよね。シャアの妹だという事実もブライトが隠していたせいかアムロはそこまで意識することはなかったし、その血筋が影響したというよりもセイラさんはそもそも人を寄せ付けない雰囲気があったから、凛とした美人で高嶺の花ですよね。あとこれは印象の話ですが、セイラさんからは母性を感じないというのか……甘えられる女性ではない。どうしても尻を叩かれて出撃させられる印象があるので(笑)、アムロが恋愛の対象として見ていたとはあまり思えないんです。『機動戦士Ζガンダム』のフラウのセリフに「まだセイラさんのこと好きなんでしょ」というのがあるけれど、あれもララァの存在を知らないフラウの推測でしかないし、そもそもアムロにそんな気持ちがあったら終戦後に連絡しているんじゃないかな。個人的な女性の好みで言うと、セイラさんは少し強すぎる印象なんですよ。ベルトーチカにちょっと似ているというか。こういう気の強い美人は、僕は苦手なんだよなあ(笑)。

井上瑤さんとも『機動戦士ガンダム』で初めてお会いしましたが、僕よりも年上で頼りがいのあるお姉さんという感じでした。声優としては当時、新人でしたが、井上瑤さんはそれ以前から顔出しでテレビ出演もされていたし、放送作家であり、ダンサーでもあるなど多才な方でしたね。『機動戦士ガンダム』でもセイラさんの他にキッカやハロを演じていて、本当に器用な方です。また、インドに旅に出て旦那さんと出会ったとか、そのあとは占いに凝るなど、とても個性的な人でした。あと記憶に残っているのは、井上さんはお料理がとても上手で、主演のメンバーでご自宅に呼ばれて食事をしたこともありました。みんなでカレーを食べたな(笑)。

■ミライ・ヤシマ(CV 白石冬美)

古谷 「ホワイトベースのお袋さん」と呼ばれているだけあって、アムロにとってはいつまでも頭が上がらない相手というのか、頼りがいのある歳の離れたお姉さんでしょうか。だからアムロにとって恋愛対象にはまったくならなかったのかなと思います。

白石さんとは共演することが多くて、僕のアニメデビュー作『海賊王子』(1966年)からご一緒させていただきました。当時は13歳で、僕はまだ中学生でした。だから、それこそ『機動戦士ガンダム』での配役は僕にとってミライさんそのままなんですよ。スタジオに白石さんがいると安心するし、心強いんですよね。当時は『パックインミュージック』(TBSラジオ/1967~1982年)で野沢那智さんとパーソナリティをやっていらして、ゲストに呼んでいただいたこともあります。「チャコさん」って呼んでいて、僕にとっては本当に頼れるお姉さんですね。『機動戦士ガンダム』ではないですが『パタリロ!』はスラップスティックメンバー全員で参加していたので、その当時がいちばん会っていたかもしれない。『クックロビン音頭』のレコーディングではチャコさんと一緒に楽曲を収録しました。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
※記事初出時、一部内容に誤りがございましたので、訂正してお詫び申し上げます。また、ご指摘、ありがとうございました。