TOPICS 2022.10.27 │ 12:00

『すずめの戸締まり』を見る前に新海誠の世界を振り返る⑦
『猫の集会』

2022年11月11日(金)に公開の新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』。その公開に先立ち、2016年の『君の名は。』の公開にあわせて雑誌Febri Vol.37に掲載した特集記事「新海誠の世界」を再掲載。『彼女と彼女の猫』『ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』など、『君の名は。』以前に制作した新海誠のオリジナルアニメーション作品について、本人のコメントを交えながら年代順に振り返る。

リード文/編集部 文/宮 昌太朗

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

わずか1分間に凝縮された、ユーモアセンスの萌芽

『猫の集会』は、2007年にNHKで放送されたユニークな企画番組『アニ・クリ15』の中の一本。この『アニ・クリ15』は、日本のアニメクリエイター・演出家15組が、それぞれ「1分」という枠内で自由に表現するという企画だった。

さて2007年というと、新海のフィルモグラフィーでいえば、ちょうど『秒速5センチメートル』を発表した直後ということになる。『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』の初期3部作を作り終え、次はいよいよファンタジーというジャンルに初めて真正面から挑戦した『星を追う子ども』――その制作に取り組もうとしたタイミング。それは新海が、さまざまな要素をそぎ落とした上で成立していた初期3部作から、日本の商業アニメのメインストリームであるキャラクターアニメーションへと、大きく舵を切ろうとしていたタイミングでもあった。

実際、この『猫の集会』では、それまでの新海の作風とは真逆とも言える、コミカルでドタバタした展開のストーリーと、デフォルメの効いたキャラクター表現が存分に力を発揮している。初見でこれが新海の監督作だとわかる人は、ほとんどいないかもしれない。……というくらい、彼のパブリックイメージ――シリアスな恋愛作家としての新海誠からは、大きく外れた作品でもある。

しかし、『君の名は。』を見た私たちは、実は彼がユーモアにも長けた作家であることをすでに知っている。また、猫たちの愛らしい愚かさを、わずか1分のうちにまとめてみせた、そのずば抜けた省略センス――言い換えれば、時間に対する見事な感受性は、まぎれもなく『君の名は。』を支える屋台骨のひとつだ。機会があれば、ぜひ見ていただきたい短編である。endmark

新海誠監督のコメント

これは、NHKで放送された『アニ・クリ15』というシリーズの中の一編なんですが、最初にまず「1分」という縛りがあったんです。僕としては、1分で一体どこまでできるのか。力試しみたいな感覚もありましたね。ちょっとジブリアニメっぽい雰囲気もあるんですが、そのあたりもかなり意図的で、なんとなくテレビをつけたときにかかって――僕の作品であるかどうかとは関係なく、クスッと笑ってもらえたらな、と。同じ『アニ・クリ15』に参加していた、ある監督さんに「時間の使い方がうまい」と褒めていただいたのは、励みになりました。

※新海誠監督のコメントを含めて、雑誌Febri Vol.37(2016年9月発売)に掲載された記事の掲載です。
作品情報

映画『すずめの戸締まり』
2022年11月11日(金)全国ロードショー

  • ©2022「すずめの戸締まり」製作委員会