TOPICS 2021.08.17 │ 12:00

歌姫100年の旅を振り返る
『Vivy』シリーズ構成・脚本 長月達平×梅原英司対談①

歌で人を幸せにすることを使命としたAIの少女が、AIたちの反乱を阻止するため100年の時間の旅をする――。SF的な「AIもの」と「少女の成長物語」が同居する『Vivy -Fluorite Eye’s Song-(以下、Vivy)』。毎回、予想を超える展開で視聴者の心をつかんだオリジナルアニメの設定と物語を一手に担ったのは、シリーズ構成・脚本の長月達平氏と梅原英司氏。『Re:ゼロから始める異世界生活』の原作者と脚本担当のコンビでもあるおふたりに、「AIたちが使命に生きる理由」をテーマに話を聞いた。

取材・文/渡辺由美子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

人間に尽くす「エム」が見せる「AIの夢」

――人間に尽くす使命があるAIという点では、第5~6話でヴィヴィの案内役を務めた土木作業型AI・エムが印象的でした。エムはヴィヴィに質問して、「将来、この人工島に人間が来たときに、喜んでもらうためには何が必要か」を学習していく。その様子がいじらしく見えました。なぜエムのようなAIを登場させたのでしょうか?
長月 あそこは梅原さんが書いたところです。俺はエムを見ると泣けてくるんですよ。
梅原 エムは原案小説(『Vivy prototype』著:長月達平・梅原英司)から登場させたキャラクターなんです。エムを出したのは、物語の運び方として、メタルフロートの島には非自律型のAIしかいないので、島のことを説明できるキャラクターがどうしても1体必要だった、というのが理由です。でも、アニメーションでエムの扱いを大きくしたのは、じつは長月さんに褒めていただいたことが大きいんです。

――そうなんですか。
梅原 エムの扱いや役割は、原案小説でも同じで、前半ではヴィヴィの先導役を担っている。けれども島のAIたちが暴走したことにより、エムはヴィヴィから停止プログラムを打ち込まれてしまう。そのエムが停止する直前に、アーカイブという心象風景のなかに潜って、幸せな未来を見るんです。その一連のシーンを原案小説で長月さんに読んでいただいたときに「エムのシーンがすごく良かった」と褒めていただいて。僕は、長月さんが「面白い」「良かった」と感じた部分に関しては全面的に信頼を置いているので、アニメの脚本でもエムの扱いは落としたりせず、原案小説のまま登場させるようにしました。

――長月さんは、エムのどんなところがいいと思ったのでしょうか?
長月 エムは、明確に「人間に尽くすAI」なんですよ。AIらしいAIというか。人間のために働くことに何の疑問も抱かないし、できれば将来ここに遊びに来る人間に対しても、喜んでもらいたいと無償の奉仕をする。こういう言い方をすると何ですが、犬は恵まれた境遇でなくても人間を頼るしかなかったりして人間を愛し続ける。物語を見ている俺たちは、そんな無償の愛をエムというAIに感じてしまうんですよね。
梅原 いわゆる「動物もの」と相通じるところがあると思います。これは僕が脚本の先輩からもらった言葉なんですけど「動物ものって泣ける」んですよ。とくに動物を飼っている人は。
長月 このAIの子たちは、もし、人間が仮に滅んだとしても、人間のためにメタルフロートを作り続けるんだろうなとか、言葉じゃなくて直感的に感じ取ってしまっていて。そう思わせる表現として、第5話でエムが機能停止寸前に見るアーカイブに、現実には存在しない幸せな未来予想図があったと思うんです。
梅原 あのエムの心象風景も、長月さんが褒めてくださったところでした。エムにも「人類に貢献する」という自分の使命から考えていた将来の夢があったんだろう。人間の子供たちが島を訪れて、自分の絵を描いてくれた子供に「かわいいです」と頭をなでたり、「エム」って名前を呼んでもらうという。
長月 エムが子供たちのために何かをしてあげたり、それに対して子供たちが喜んでくれたりする。そういう関係性を築くことが、AIにとってのささやかな希望だったり、未来として望んでいるものなのだと気がついたときに、もの悲しさや切なさを感じて泣きそうになるんです。
梅原 エムが泣ける理由は「動物もの」だからって言いましたが、結局、彼らが純粋でイノセントな存在だからだと思います。そういう存在がつらい目に遭うと泣けてきてしまうんでしょうね。

ヴィヴィは「答えのない使命」を与えられてしまったAI

――ヴィヴィもAIとして「歌でみんなを幸せにする」使命を与えられた存在ですが、ほかのAIたちよりも悩んだり葛藤しているように感じました。
長月 AIの中でも、最初から答えが出ている使命と、そうでない使命があると思うんです。たとえば、人命救助の使命が与えられているAIだったら、行動に悩むことはない。エステラとかも、お客さんの人命を守るという明確な目的があるから行動に迷いがない。でも、ヴィヴィは誕生したときに「歌でみんなを幸せにする」という、すごくふわふわした明確な答えのない使命を与えられてしまった。だから、その使命を果たすために何をしなければならないのかを常に考え続けていかなければならなくなった。

――なるほど。
長月 答えのない使命にしたのは、ヴィヴィが模索しなければいけないポジションにしたかったからです。AIと人間は持っている時間の量や、時間に対する捉え方が全然違う。人間なら、人生で選択を迷っている時間というのはあまりないですよね。生きられる時間が限られているから。一方で、AIは膨大な時間があるから、ひとつの使命、ひとつの答えを出すために、いくらでも時間を費やすことができる。今回のヴィヴィの100年の旅路では、人とAIの戦争を防ぐための「シンギュラリティ計画」を遂行していくなかで、さまざまな出会いや経験を経て、「歌でみんなを幸せにする」という本来の使命にも、彼女自身が納得のいく答えを得られた。それが、『Vivy』全話を通したタテ軸のお話になるのかなと思います。endmark

長月達平
ながつきたっぺい 小説家。『Re:ゼロから始める異世界生活』『戦翼のシグルドリーヴァRusalka』などを発表。アニメにも積極的に参加し、『Re:ゼロ~』ではシナリオ監修を、『戦翼~』ではシリーズ構成・脚本を担当。『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』では構成補佐として参加。
梅原英司
うめはらえいじ シナリオライター。ゲーム『CHAOS;CHILD』シナリオを手がけ、同アニメにはシナリオ監修で参加。『Re:ゼロから始める異世界生活』脚本のほか、『曇天に笑う 外伝』シリーズ構成・脚本、『劇場版ポケットモンスター みんなの物語(2018年)構成・脚本を担当。
作品情報

Vivy -Fluorite Eye’s Song-
BD/DVD Vol.03は2021年8月25日発売

  • ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO