TOPICS 2021.08.18 │ 12:00

歌姫100年の旅を振り返る 『Vivy』シリーズ構成・脚本 長月達平×梅原英司対談②

ヴィヴィがフリーズして40年後、彼女は歌姫ディーヴァとして舞台に立っていた。ヴィヴィはなぜディーヴァになり、そしてもう一度ディーヴァからバトンを渡されることになったのか? さらに、スタッフ陣を唸らせたヴィヴィ役・種﨑敦美氏とマツモト役・福山潤氏の演技とは? 『Vivy -Fluorite Eye’s Song-(以下、Vivy)』シリーズ構成・長月達平氏と梅原英司氏に引き続き話を聞いた。

取材・文/渡辺由美子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

ヴィヴィを導くディーヴァは「強キャラ」でなければならなかった

――ヴィヴィは、第6話のラストで、一度フリーズしてしまいました。これはヴィヴィが、冴木博士が命を絶ってしまったことをきっかけに、「人を幸せにする」という使命を果たせず、挫折してしまったからだと見えました。
長月 そうですね。ヴィヴィは、自分の「使命」を果たすにはどうすればいいかをずっと考えているので、ほかのAIたちの行動や、人間の行動に影響をすごく受けやすいんですね。なので、第3~4話ではエステラやエリザベスが、宇宙ホテル・サンライズの落下を止めたのを見て、ヴィヴィも「使命をうまく果たせたんだ」という気持ちになれたけど、第6話では、ヴィヴィが「使命」を追求したことで、冴木博士が、愛するグレイスを失うきっかけになってしまった。
梅原 ヴィヴィとしては、メタルフロートの暴走を止めるためには、AIを動かす核になっているグレイスを止める必要があって、それがヴィヴィの使命でもあったんですが……。AIがどんなにがんばって使命を果たしても、良い結果につながるとは限らないということですね。物語の流れ的にも、「良いことのあとに悪いことが起こる」というのは、やっぱり必要な起伏だったと思います。

――第7話から第9話までヴィヴィは記憶を失い、「ディーヴァ」という歌姫になります。なぜディーヴァになったのでしょうか?
長月 ヴィヴィとディーヴァに人格を分けたのは、「AIの使命は一体につき1つである」にもかかわらず、ヴィヴィが使命をふたつ持ってしまったからですね。
梅原 もともと彼女は「ディーヴァ」として誕生して、「歌でみんなを幸せにする」使命を負っていたけど、モモカから「ヴィヴィ」という名前をもらい、マツモトから人類の危機を聞いたことで「人類を救うためにシンギュラリティ計画を遂行する」というふたつめの使命を与えられてしまった。同じAIの個体に、ふたつの使命が同居してしまったんです。
長月 そのときに起こるふたつの使命のコンフリクト(衝突)は、『Vivy』を作るときに向き合わなくてはいけないテーマだと思ったんです。それをどう描くかを考えたときに「人格をふたりに分けて、ぶつかってもらいましょう」という形になりました。

――なるほど。ディーヴァの人格は、ヴィヴィよりもしっかりしたお姉さんになりましたね。
長月 第9話のラストで、ディーヴァがヴィヴィにアーカイブの音楽室でお別れを言っていなくなることは決めていたので、あのシーンに至るまでに、見ている人がディーヴァを好きになってもらえるキャラクターにしなきゃいけない、というのが自分たちのなかにあったんです。それで出てきたのが、自分にすごく自信があって、まわりを振り回すけれど、正しいことを言う、いわゆる「強キャラ」ですね。
梅原 ディーヴァがそういう性格であれば、ヴィヴィとしての記憶を失っても、自分からマツモトを追いかけて自らシンギュラリティ計画に踏み込んでいくという必然性も出ますしね。
長月 ディーヴァには、いなくなるところも含めて、物語におけるヴィヴィの「メンター(導く人)」的な役割を担ってもらいました。メンターって、基本的にいいとこでいなくなるものなので。

種﨑さんの演技から生まれたエザキシンペイ監督の演出

――キャストの種﨑敦美さんによるヴィヴィとディーヴァとの演じ分けも印象に残りました。
長月 ヴィヴィの種﨑さんとマツモト役の福山潤さんには早い段階で脚本をラストまでお渡しすることができて、おふたりとも「最終的にどうなっていくかがわかったうえで役作りができた」とおっしゃってくださいました。もちろん、おふたりともお芝居が上手なのですが、それだけではなく、ご本人の取り組み方や感覚的にもバシッと作品にハマったからだと思います。ヴィヴィとマツモトはあのふたり以外に考えられないです。
梅原 そうですね。あのふたりでよかったですよね。

――まずは種﨑さんについて聞かせてください。
長月 種﨑さんは、ヴィヴィが「心込めて歌う」という、すごくエモーショナルな課題に立ち向かわなければいけなかった。しかも、AIたちを見届けることでヴィヴィ自身も経験を積みながら、自分のやるべきことについて自覚していくような、心の成長を演じなければならなくて大変だったと思います。

――種﨑さんのどんな演技が印象に残っていますか?
長月 種﨑さんは、自分がどう演技したかということをご自分から説明するタイプではないんですが、俺が『Vivy』のラジオ番組(Vivy -Fluorite Eye’s Radio-)の最終回にゲスト出演させてもらったときに、「これだけは伝えたいと思って」と語ってくださったことがありました。最終話のマツモトとヴィヴィがいったん離れ離れになるところで「まかせておいて、ちゃんとディーヴァみたいにみんなに届く歌を――」というヴィヴィの言葉に対して、マツモトが「聞きたいのはあなたの歌ですよ」と返すシーン。ここでヴィヴィがパチン!と指を鳴らしますが、これはディーヴァの癖なんです。種﨑さんは「あそこは、どうしてもヴィヴィとディーヴァが重なる演技を入れたかった」とおっしゃって、覚醒したヴィヴィには「ヴィヴィなのか、ディーヴァなのか、どちらなのかわからないハイブリッドな瞬間」を入れて演技をしてくれたそうなんです。それは、第9話でディーヴァと別れたあとでも、彼女がヴィヴィのなかにいるという、種﨑さんなりの解釈だったんですね。エザキ監督も「ヴィヴィのなかでディーヴァが生きている」ことを表現するために、指を鳴らすという演出をいれてくださいました。

――なるほど! 脚本のみならず、エザキ監督の演出が効いていますね。
長月 見ている人にも、ヴィヴィなのかディーヴァなのか、どちらの片鱗も見せる種﨑さんの演技と、エザキ監督の演出が相乗効果でシーンを高めてくれました。

作品情報

Vivy -Fluorite Eye’s Song-
BD/DVD Vol.03は2021年8月25日発売

  • ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO