Febri TALK 2021.08.09 │ 12:00

雲田はるこ マンガ家

①キャラクターと世界観に衝撃
『カウボーイビバップ』

BLマンガ家としてデビューし、一般部門に進出した『昭和元禄落語心中』で数々のマンガ賞を獲得したマンガ家・雲田はるこ。インタビューの第1回は、雲田にとって創作の理想形のひとつであり、自身も多大な影響を受けたと語る『カウボーイビバップ』について。

取材・文/岡本大介

スパイクは、私にとって理想の主人公像

――TVシリーズは1998年から1999年にかけての放送ですが、これはリアルタイムで見ていたんですか?
雲田 はい。当時は学生で、それまでアニメはあまり見てこなかったタイプなんですけど、風の噂で「音楽がめっちゃいい」と聞いて、それで見たのがきっかけですね。

――音楽が好きだったんですね。
雲田 そう。ちょうどR&Bとかソウルとか、ブラックミュージックにハマりだした頃だったんです。

――本作の劇伴はジャズやブルース的な曲調が多いですからね。
雲田 劇伴を担当された菅野よう子さんがすばらしいお仕事をされていて、すっかり魅了されました。視聴後はサントラCDを買って、それを延々と聞き込んでいました。とにかく劇伴に注目していたのでストーリーのほうはぼんやりしていたんですが、今回の取材のために見直してみたら、音楽が流れた瞬間に頭のなかにシーンが鮮明によみがえってくる感覚があって。やっぱり、音とともにシーンをおぼえていることってあるんだなって思いましたね。全編通して見たのはかなり久しぶりなんですけど、そんな感じは全然しませんでした。

――久しぶりに視聴して印象はいかがでしたか?
雲田 いやもう、私がめちゃくちゃ影響を受けているなと。端々にそれを感じました。初めて見たときから「どうやったらこんな物語が作れるんだろう?」って不思議に思ってはいたんですけど、それから20年以上も無意識にそれを追い続けていたんだと感じて。あらためて、私はこういう肌触りの作品を目指しているんだなって。

――具体的にはどんなところが好きですか?
雲田 多種多様な人種や民族が登場する無国籍な雰囲気や、ワケありの他人同士が疑似家族を作って絆を育んでいくところとか、アナログで懐かしい雰囲気がありつつ、古臭くない世界観とか、セリフ回しも粋でかっこいいですし、もうすべてです。今や世界中で人気がある作品ですから、影響を受けて、『カウボーイビバップ』が作品ににじみ出ている作家さんも多いんじゃないかなと思っています。

――ハードボイルドな男同士の絆などは、まさに雲田先生の作品にも色濃く投影されているような気がします。
雲田 そうですね。『新宿ラッキーホール』はとくに顕著で、ふだんはみんなでふざけているんだけど、最終話に近づくと一気にシリアスになる感じとか、めっちゃ影響受けてんじゃ〜んと、自分でも面白くなってしまいました。

――奇しくも『昭和元禄落語心中』のTVアニメでは、スパイク役の山寺宏一さんとフェイ役の林原めぐみさんのおふたりがメインキャストを担当していますが、これは雲田さんが希望したんですか?
雲田 これは本当に奇跡のような偶然なんです。『カウボーイビバップ』から受けた影響を自分の作品に投影した結果、巡り巡ってキャストさんが一致したということなのかもしれません。それだけ長くご活躍されているってすごいことですよね。おふたりには最終話の打ち上げの席で「『カウボーイビバップ』が大好きで……」と告白したんです。そうしたら山寺さんが「『昭和元禄落語心中』は『カウボーイビバップ』と似た部分があるのかもしれない」と言ってくださって、すごく感激しました。世界観こそ違いますが、きっと通じるものはあるんですね。私のなかにも、おふたりに出演していただけるような、血の通ったあたたかい物語を描きたいという気持ちがどこかにありましたし、それはたぶん今後も変わりません。

私自身もこの先ずっと

こういう雰囲気の作品を

目指していくんだろうなと思える

――どちらも「漢気」がすごいですよね。
雲田 好物なんですよね、漢気が(笑)。今は絶滅危惧種になりかけていますから、せめて創作のなかでは大切にしたいなと思っています。そういう意味で、スパイクは私にとって理想の主人公像で、それが原点としてずっとあるのかもしれません。それにもともと松田優作さんの『探偵物語』や萩原健一さんの『傷だらけの天使』のような、昭和感のあるドラマが好きなんですよ。言葉にはしにくいですが、あの時代にしかないものって必ずあるんですよね。

――印象深いシーンはありますか?
雲田 今回見返していて、ひときわ切なさを感じたのが、エドとアインがビバップ号から下船するシーン(第24話「ハード・ラック・ウーマン」)です。エドってそれまですごく愛されキャラだったのに、急にあんなにあっけなくビバップ号の外に出て行ってしまう。残された男たちの寂しさがすごく際立ちますよね。なんだか昔に見たときよりもグっときました。

――突然の別れをきっかけに、そこから一気にクライマックスに突入するんですよね。
雲田 フェイもいなくなって、残されたスパイクとジェットがふたりでゆで卵をむしゃむしゃと食べるシーンがすごく切ないんですよ。せっかくみんなで食べようと用意していたのに、突然ふたりきりになって。スパイクの最期を描くにあたり、その前に各キャラクターのドラマにケリをつける必要があったとはいえ、思いきった描写をするなと思いました。でも、それが強烈なスパイスになって、その切ないシーンから、一気に緊張感が増していく感じもカッコよくて好きです。

――飄々とした雰囲気から急にシリアスになる展開というのはアツいですよね。
雲田 どんどん真剣みを増していくスパイクはもちろんいいのですが、そのそばで甲斐甲斐しくフォローするお母さんのようなジェットにも愛おしさを感じます。学生時代に見たときは、ジェットは完全に保護者ポジションだと思っていたんですけど、調べたらまだ36歳なんですよね。若いのに苦労しているんだなと思うと、余計に愛おしくなりました(笑)。そういうそれぞれのキャラクターの深みも、今見るとさらに感じることができるようになりましたね。

――雲田先生にとって創作におけるバイブルのような存在なんですね。
雲田 そうですね。近未来のSF世界が舞台なのに中心に泥臭いアナログ感があって、たぶん私自身も、この先ずっとこういう雰囲気の作品を目指していくんだろうな、と思います。endmark

KATARIBE Profile

雲田はるこ

雲田はるこ

マンガ家

くもたはるこ 栃木県出身。2008年、ボーイズラブ・アンソロジー「職業カタログ」にて『窓辺の君』でマンガ家としてデビュー。その後、一般漫画誌にて『昭和元禄落語心中』を連載。第21回手塚治虫文化賞新生賞をはじめ多くの賞を受賞。

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