Febri TALK 2023.02.20 │ 12:00

川面真也 演出家

①アニメーションの気持ちよさにハマった
『天空の城ラピュタ』

『ココロコネクト』や『のんのんびより』など、思春期の繊細な感情描写はもちろんのこと、2021年には劇場アニメ『岬のマヨイガ』の監督も務めるなど、活躍の幅を広げている川面真也が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の第1回は、小学生時代に出会い、アニメの原風景とも言える『天空の城ラピュタ』について。

取材・文/岡本大介

アニメにここまで夢中になったのは初めて

――『天空の城ラピュタ(以下、ラピュタ)』の公開は1986年ですが、川面さんが見たのはいつのタイミングでしたか?
川面 公開と同じ1986年で、僕は小学校6年生だったと思います。とはいえ、映画館で見たわけではないんです。友達から「近くに新しい電気屋さんができたから行こう」と誘われて、そこに陳列してあったテレビにこの作品が映っていたんです。

――セルビデオを店内のテレビで流していたんですね。
川面 そうだと思います。当時の僕はそれがなんの映画なのかまったく知らない状態だったんですけど、それでもなぜか画面に釘付けになったんですよね。最初のシーンから見ているわけじゃないのでストーリーも理解していないんですけど、動きの気持ちよさにハマったんだと思います。最後まで見たらまた最初から始まったので、それも最後まで見ました。翌日も、その翌日もその電気屋さんに通ってはテレビの前で立ち尽くして何回も繰り返し見続けました。最後のほうはセリフもほとんどおぼえていたと思います。

――ジブリ作品であることを知らない状態でハマったんですね。
川面 そうですね。もともとそこまでアニメ好きというわけではなかったんですよ。友達が見ているアニメを僕もなんとなく見ていたくらいで、それよりはマンガや小説のほうが熱心でした。なので、アニメにここまで夢中になるのはおそらく初めてのことだった気がします。ジブリアニメ特有の動きの気持ちよさというのが、子供ながらにも響いたんでしょうね。

――とくに印象的なシーンはありますか?
川面 昔も今も変わらないんですけど、僕はなんでも「過程」が好きなんですよね。パズーがドーラ一家といっしょに行動することになり、機関士の助手をしたり見張りをしたりして海賊たちに受け入れられていくじゃないですか。新たなコミュニティの中に自分の役割や居場所があり、その場所にどんどんなじんでいくという「過程」にワクワクしていました。なので、いちばん好きなシーンを挙げるなら、その出発点である「40秒で支度しな」です。当時はウエストポーチが流行っていて、僕もいつも身につけていたんですけど、40秒でこのポーチに何を入れるべきかについて真剣に悩んでいました。「まず親父にもらった十徳ナイフは絶対に入れるよな、次は……」みたいに(笑)。年齢も近かったせいか、完全にパズーになった気でいましたね。

――パズーは男の子の憧れですよね。
川面 パズーはスーパーマンですよね。シータを助けるためにドーラたちに付いていくっていう決断力や行動力もそうですし、機械いじりも得意でトランペットもうまい。さらにコミュ力も高いですし、憧れました。

パズーが大股で歩くだけで自分まで爽快な気持ちに

――川面さんは思春期のドラマを手がけることが多いですが、こういった冒険ファンタジーをやってみたいという気持ちもありますか?
川面 そうですね。今のアニメ業界の流れ的にはかなり難しいなとは思いつつ、一度はチャレンジしてみたいという気持ちはもちろんあります。

――現在の川面さんの演出や監督業において、『ラピュタ』が影響している部分は感じますか?
川面 影響と言うか、『ラピュタ』は究極の形なんですよね。ファンタジー世界で非現実的なことをやっているのにもかかわらず、まるで自分が体験しているような錯覚をおぼえるんです。食事シーンでは自分も同じものを食べている感覚になり、飛行シーンでは空を飛んでいるような気持ちになる。パズーが大股でスタスタと歩くだけで、こちらまでなんとも言えない爽快さを感じるじゃないですか。誰かが描いた絵をモニター越しに見ているだけなのにここまでシンクロするなんて、冷静に考えるとすごいことですよね。自分の作品でそれができているかどうかはわかりませんが、そういう感覚はいつも大切しています。

――そういったシンクロ感を高めていくには何が大切だと思いますか?
川面 ジブリ的な気持ちよさを求めるならば、やはり作画の力が圧倒的に大きいですよね。でも、それはアニメーターさんの力であって、絵の苦手な僕にはコントロールできない領分なんです。なので、僕の場合は身体感覚をシンクロさせるのではなく、思考や感情をシンクロさせる方向性で勝負するしかないですね。

――「思考や感情をシンクロさせる」と言うと?
川面 カットのタイミングや緩急をコントロールする方法で、端的に言えば『新世紀エヴァンゲリオン』や押井守版の『攻殻機動隊』のような演出です。これらはもちろん作画も素晴らしいんですけど、身体というよりも「脳が気持ちいいな」って感じる瞬間が多いじゃないですか。目まぐるしくカットが移り変わったかと思えば、逆に静寂が長く続いたりして、それが思考や感情とうまくリンクすると気持ちがいい。この方向ならアニメーターではない僕でも追求することができるのかなと思っています。『ラピュタ』とは真逆の方向からのアプローチですが、結果的に没入感やシンクロ感を高めるという意味では同じだと思っているので、そこはつねに意識していますね。endmark

KATARIBE Profile

川面真也

川面真也

演出家

かわつらしんや 1974年生まれ。大阪府出身。デザイン会社に勤務後、制作進行としてビィートレインに入社。『ノワール』で演出家デビュー。主な監督作は『吟遊黙示録マイネリーベ wieder』『ココロコネクト』『のんのんびより』『田中くんはいつもけだるげ』『ステラのまほう』『サクラダリセット』など多数。

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