TOPICS 2023.07.14 │ 19:00

放送5周年を迎えた『BANANA FISH』
福山潤インタビュー「李月朧から見たアッシュという光」②

キャスト発表時、「少女マンガの概念を根底から変えてくれた」と原作への愛を表明した福山潤。圧倒的な存在感で美しき華僑を演じる彼が語ったのは、李月龍の隠された思いとアニメへの希望だった。インタビュー後編ではその思いをさらに深堀りした。

取材・文/高野麻衣

※雑誌「Febri Vol.51」(2018年11月発売)に収録されたインタビューの再掲載です

アッシュの声を聞いたときは、新鮮ながら安心感があった

――収録現場でのやりとりで、印象的だったことはありますか?
福山 最初はとくに彼の持っている色っぽい部分、女性ではなく男性の色気に対して注文をいただきました。月龍もまた男娼としての側面があり、そこを拒絶したアッシュに対し、武器として受け入れている人でもある。しかし、男としてのアイデンティティはアッシュと共有している、というさじ加減ですね。ショーターに月龍であると明かす場面も、男性としての強さをもっと出してほしいと言われました。監督サイドからのそうした注文がなければ、ああいう風にはできなかったと思います。実際、読者として読んでいたときは、アッシュはもちろん、月龍を演じることも無理だと思っていたんですよ。

――それはなぜですか?
福山 僕に天才は演じられない、説得力がないと思っていたんです。もし、演じられるならシンか、英二か。もうちょっと年をとったらショーターもありえるのかな、という感じで。年齢を重ねるなかで変化もありながら、時折考えてはいたんですが、月龍に決まったと聞いたときは、そこは考えていなかった!って。男性すら迷わせてしまう色香って、言葉で言うのは簡単だけどどうするんだよって(笑)。でも、結果的に人間味があるキャラクターで助かりました。月龍はああ見えて、アッシュ以上に迷いや怒りが色濃い少年ですから。

あと、(アッシュ役の)内田(雄馬)さんや(英二役の)野島(健児)さんとのバランスが悪くならないようにしないとっていうのは、途中から参加したときにいちばん気にした部分ですね。初めてアッシュの声を聞いたときは、新鮮ながら安心感がありました。あらかじめ作っていただいていたメインキャラクターたちの存在で、心配が消え去りましたね。

――他の方との共演はいかがですか?
福山 シン役の千葉(翔也)さんとの共演は、今回が初めてで。僕の中に千葉さんのインデックスがなかったので、すごく新鮮です。若手の子が少年の役を一生懸命演じている姿に、大変好感が持てます。月龍にとってシンは、一種の疑似英二だと思うんです。シンの存在によって、一族の闇にのみ込まれなくてすむ、ストッパーのような存在。月龍は無自覚だと思うんですけどね。そういう意味で、千葉さんの新鮮さは気持ちいいです。

今後、絡んでくることになるのはブランカですが――こういうことを言うとあと出しだと言われちゃうんですが、僕の脳内キャスティングでは、10年くらい前からブランカは森川(智之)さんでした。本当です(笑)。ブランカって、マフィアに協力しながら美学に従っている、ドラマチックな人物じゃないですか。アッシュも含め、みんなに弱点がある中で唯一の超人だし。森川さんは数々の超人を演じられていますし、何より柔らかでやさしい声の持ち主なので、おそらく原作ファンの方が聞いたときにも「うん、ブランカだね」ってすんなり入っていけると思います。森川さんの声には、そんな安心感があります。

アニメを入り口に、新しい人にこの聖典に触れてほしい

――原作のいちファンとして、現代のニューヨークが舞台になったアニメ版をどのように見ていますか?
福山 じつは、アニメ化されると決まった段階でまず気になったのが、原作の1980年代後半から描き始めるのか、それとも現代を舞台にしてやるのかという点でした。いわゆる古典、ノスタルジーとして描くのか、現在進行形の物語として描くのか――これって重要なことです。『スター・ウォーズ』などにも言えることですが、作品が受け入れられて時が経つと、原作が聖典になってしまって、そこからの変化は一切許さないという原理主義が生まれるんです。もちろん、それも大切な思い出への愛ゆえの行為です。

ただ、完結した名作をあらためて世に出すとき、最大の命題は「作品の素晴らしさを新たな人に知ってもらうこと」に尽きると思うんです。とくに、今アニメとして作るのであれば、主要な視聴者である10代の子たちが作品を身近に感じられるよう、現代として描くべきだと感じたんです。目の前にいるこの少年たちは、遠い異国で今、必死に生きているって思えたほうが共感できるし、憧れや、いろいろな気持ちが向けられるからです。

もし、実写でアメリカのNetflixとかでテレビドラマシリーズで描かれるなら、僕も原作の時代背景で見てみたいですけどね。それくらい、アニメーションと実写作品には異なるターゲット層がある。たぶん、制作サイドは相当悩まれたんじゃないかと思います。だけど僕は、ものすごい英断だったと思っています。

――そうですね。若い方たちが目をキラキラさせてアッシュたちを語るのを目にして、原作ファンとして感謝でいっぱいになります。
福山 原作は絶対に変わりませんもんね。それこそ『光の庭』や『PRIVATE OPINION』も含めて絶対に変わることはないし、色褪(あ)せない。変わらないものがしっかり存在しているのだから、時代になじむための変化など小さなことです。むしろアニメという入り口から新しい人が聖典に触れて、その素晴らしさが広まることのほうが僕はうれしい。だって『BANANA FISH』に比肩(ひけん)する作品は、いまだありませんから。

アニメ化されたことによって、『BANANA FISH』は本当の意味で、すべての世代から愛されるクラシックになっていくでしょう。そうやって、古典は作られていく。だから今回、月龍を演じること以外に自分にできることがあるとしたら、原作ファンとしてのこういう思いを言語化して、たくさんのファンの方に納得していただくことかな、と。その助けになるのでしたらいくらでもしゃべろうと思っています(笑)。

――愛ですね。『BANANA FISH』を愛するすべての人に、伝えたいことはありますか?
福山 思い立ったときに誰とでも語れるっていうのが、古典だと思うんです。たとえば、シェイクスピアって古典すぎて、いろいろな解釈が生まれているじゃないですか。『BANANA FISH』はそういう作品です。興味があったら、原作の1980年代のアメリカの政治・経済なんかも調べてみると面白いですよ。映画でもドラマでも本でもいいし、そういった知識を得ることで、事件の背景や薬の扱い、それを使っている人たちの日常を知ることができて、『BANANA FISH』のアッシュたちの物語の厚みまで増していくんです。今回のアニメを通して、新しい作品に追われて過去に戻る時間がない今の子どもたちに、そういう名作の楽しみ方も知ってほしいですね。『BANANA FISH』みたいに語れる物語も、まだまだいっぱいありますから。endmark

福山潤
ふくやまじゅん BLACK SHIP株式会社所属。1997年声優デビュー。初代声優アワード主演男優賞、東京国際アニメフェア2009声優賞など数々の受賞歴を持つ。主な出演作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』ルルーシュ・ランペルージ役、『おそ松さん』一松役など。
作品情報

『BANANAFISH』
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  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH