TOPICS 2023.04.07 │ 12:00

『地獄楽』小林千晃と花守ゆみりが語る、画眉丸と佐切の心の変化①

2023年4月より放送開始となったTVアニメ『地獄楽』。異形はびこる未知の島、 神仙郷。常世(とこよ)とも思えるかの地で、死罪人と打ち首執行人という立場の異なる者たちがそれぞれの想いを胸に戦う姿が描かれる。ここでは、主役である死罪人・画眉丸を演じる小林千晃と打ち首執行人・山田浅ェ門佐切を演じる花守ゆみりにインタビュー。浮世離れしたキャラクターをどう演じたかを語ってもらった。

取材・文/田中尚道

相手に響かない「がらんの画眉丸」の演じ方

――画眉丸を演じるにあたって大事にしたことは何でしょう?
小林 妻命(つまいのち)ということを常に意識して演じています。お話が進むとそこを見失う場面もあるのですが、そうするとまったく違う画眉丸になってしまうんですね。杠(ゆずりは)にも「あんた、ブレないね」と言われるくらい、どんなにボロボロになっても、命の危機に瀕しても妻命を貫くことが根幹にあります。
――しかし、第一話では妻への愛を認識していませんよね。
小林 まわりから「がらんの画眉丸」と呼ばれていたので、心がない状態、妻への愛を認識していない状態から始めたほうがいいのかなと思っていたんです。声の表現としてどうやったら「がらんどう」のニュアンスが出るかなと考えた結果、佐切と会話しているときも相手に対して何も響いていない感じ、「私の話、聞いてる?」となるようなニュアンスでしゃべるようにしたのですが、ディレクションでは「本人が意識しているかどうかはともかく、すでに妻から愛情だったり、他人との接し方といった人間生活の基本を受けているので、虚空に話しかけるのではなく、相手の存在を認識したうえで距離感を出してほしい」と言われました。

小林 ですから、第一話の段階ではその部分をふわっと出して、佐切の存在を認識してからははっきり出すようにしています。お礼を言うといった基本的なことも妻に教えてもらったものなので、言わされている感じはありますが、それでも彼なりに言おうとしているんです。
花守 テストテイクでの画眉丸の「妻から与えてもらったものを他人に返せるところまでまだ行っていない」感じが好きだということを、ここで告白します(笑)。
小林 まさかのここで!

画眉丸がブレないからこそ、佐切は迷いを見せられる

――お互いのお芝居を見ての気づきはありましたか?
小林 画眉丸が佐切の魅力的な部分に少しでもデレてしまったり、彼女に心を開いてしまうと本来の彼じゃなくなってしまうので、あくまでも佐切に対しては仕事仲間として接していますね。
花守 画眉丸には妻という軸があってブレない。それは佐切が求めている「迷いのない心」なんですよね。どうしたら彼のようになれるのだろうかと考えると、いつの間にか画眉丸が心の軸になるんです。お芝居に関しても第一話で佐切をどこまでしっかりさせればいいか迷ったのですが、テストテイクのときから千晃くんの画眉丸が安定していたので、これは背中を預けて自分は格好悪いところや迷いを見せていいんだと思って頼らせてもらいました。

小林 うれしいです。佐切を演じられている花守さんを見ていると、花守さんがこう演じたいと思っている部分とディレクションとの間での悩み、そして佐切がもともと持っている悩みがまぜこぜになって、結果的に佐切の「迷いの芝居」につながっていると思います。花守さんと佐切が重なって見えるので、僕も画眉丸と同じように「本当は強いのに、何をそんなに迷うことがあるのか」「心の中ではやりたいことが見えているのではないか」と思っています。でも、それは画眉丸も同じで、妻に言われたことを守ろうとしつつ、同時に忍としての矜持もあるという矛盾に悩んでいる。そうしたなかでお互いに足りない部分を補完しあっている存在なのだなと気づきました。

――画眉丸は仲間に裏切られて捕らえられたわけですが、佐切をどこまで信用しているのでしょう?
花守 最初は信用する、しないという感じではなかったです。
小林 なかったね。
花守 役職的に「こいつは邪魔だ」という認識しかないですよね。
小林 忍はまず自分が生きることを優先しますが、仲間の誰かが目的を達成するなら、自分は死んで当たり前とも思っている。それは仲間を信頼しているのではなく、作戦全体に対しての信頼なんです。だから人に対する信頼はないのかもしれない。佐切に対しても、目的が同じことへの信頼はあるけど、こいつなら仙薬を探してくれるとか、こいつがいれば妻の元へ帰れるという信頼はしていないと思います。

現場で作り上げた、佐切の「少女と大人の狭間」のお芝居

――アフレコではどのようなディレクションがありましたか?
小林 画眉丸の根幹に関わる部分として、“がらんどう”のお芝居については先ほどもお話した通りディレクションをいただきました。それ以外はシーンによって緊迫感をもう少し出してほしいとか、逆に分析に徹してほしいといった調整でしたね。オーディションのときに戦闘シーンのお芝居があったので、わかりやすく見せるために敵意を出して、普通の画眉丸より低いトーンで演じていたのですが「そこはもっとからっぽで」というディレクションがありました。棒読みじゃないですが、殺すことに対してなんとも思っていない、ただ仕事をこなすように殺しに徹してほしいということでしたので、以降はその感じで演じています。
花守 私は感情の機微を現場で整えてもらうことが多かったです。というのも、 神仙郷に行ってから、佐切はどこまで怖がったほうがいいんだろうと悩んでいて。牧田監督と音響監督のえびなやすのりさんから「ここは画(え)に合わせて恐怖の感情を出してください」とか「ここは冷静に分析してください」などのディレクションがあったので、都度すり合わせました。自分の中でというより、現場の皆さんと作っていった感じです。

花守 その一方で「こう演じたい」という自分なりの考えも持って行きました。オーディションのときは佐切をもっと大人の女性だと思っていたので、迷うときに弱さがにじむ感じのお芝居にしていたのですが、全体的にもっと少女が頑張ってふるまっている感、背伸びをしているわけじゃないけど、背筋を伸ばしている感じが欲しいと言われました。その少女感をどれくらい入れ込むかは悩みましたね。声を安定させるとちゃんとしすぎてしまうので、少女にも大人の女性にも聞こえるラインを攻めることで、彼女の狭間(はざま)のニュアンスが出るのかなと思っていました。endmark

小林千晃
こばやしちあき 6月4日生まれ。神奈川県出身。大沢事務所所属。主な出演作は『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』(ヒロト役)、『氷属性男子とクールな同僚女子』(氷室くん役)など。
花守ゆみり
はなもりゆみり 9月29日生まれ。神奈川県出身。tomorrow jam所属。主な出演作は『ゆるキャン△』(各務原なでしこ役)、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』(キュアコーラル/涼村さんご役)、『カワイスギクライシス』(リザ・ルーナ役)など。
作品概要

TVアニメ『地獄楽』
2023年4月1日より毎週土曜23時~
テレビ東京系列他にて放送中

  • ©賀来ゆうじ/集英社・ツインエンジン・MAPPA