TOPICS 2021.09.16 │ 12:00

少女たちの「自立」を描く
『岬のマヨイガ』 川面真也監督インタビュー②

8月27日に公開されたファンタジーアニメ『岬のマヨイガ』。傷つき、行き場のない少女・ユイとひより、そして謎の老婆・キワのちょっと不思議で温かな交流を描く今作について、監督を務める川面真也にインタビュー。第2回では、演出や背景などの絵作りについて話してもらった。

取材・文/福西輝明

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

ユイたちには、その土地のものを食べてほしいと思った

――マヨイガは、外観は古そうだけど中に入ると意外とおしゃれという装いですが、どこかモデルとなる場所があるのでしょうか?
川面 古民家をリノベーションした宿をモデルにさせていただきました。実際に取材で訪れたとき、なんというかものすごくくつろいだ気持ちになれたんです。同行していただいたキャラクター原案の賀茂川さんは到着した途端リラックスしすぎて、いきなり絵を描き始めたほどです(笑)。たしかに、僕もあの心地よさには癒されましたし、ここでおいしいご飯を食べてぐっすり眠れたら、もう一度立ち上がって新しい一歩を踏み出せる気力がわいてくるだろうなと思いました。

――作中でいろいろなお茶が出されていたことが、なぜか妙に印象に残りました。
川面 衣食住の「衣」と「住」は満たされているので、「食」をどう表現するか考えたときに、単においしいものではなく、その土地のものをユイたちに食べさせたいと考えました。田舎の人にとってはポピュラーだけど、都会の人はよく知らない。そんなメニューを料理研究家の方にご協力いただいて、キワさんが作る料理を考えていただきました。その中にあったものが、クロモジ茶やタンポポの根茶です。お茶を飲む時間って、ホッとひと息つける安らぎの瞬間じゃないですか。そこでユイたちがこれまで飲んだことがない、なんだかいい香りで身体にもよさそうなものがいいなと。でも、僕は実際に飲んだことがないので、本当においしいかどうかはわからないんですよね(笑)。

――大槌町へ取材旅行に行ったそうですが、実際に訪れて印象に残ったことは?
川面 本作の舞台はあくまでも架空の町で、作り自体はイチから設定を起こして作っています。そのなかで美術設定にリアリティを出すための参考として、取材させていただいた大槌町を部分的に使わせてもらっているという形ですね。震災の際も被害が大きいところだったので、当時の風景や生活についてお話を伺ったりもしました。僕は以前、アニメ『のんのんびより』制作のため、日本のいろいろな田舎を巡っていまして。それまでは基本的に山間部が中心だったのですが、『岬のマヨイガ』の制作で初めて田舎の沿岸部を訪れたんです。山と海の両方がある風景というのは、やっぱり独特の趣があっていいですね。それと、北国というとなんとなく寒々しくて薄暗いイメージがあったのですが、大槌町がある太平洋沿岸部は、意外なほど明るくて暖かかったのが印象的でした。だから、作中でも空や海は明るめに描いているんですよ。

背景ごとCGで構成しているのは、全部で4カット

――背景の描写には随所でCGが使われていましたが、絵画調の風景との違いがあまりわからないくらい、緻密に描かれていたように感じました。
川面 冒頭のタイトルバックで、マヨイガからグーっと引いてくるシーンをはじめとして、背景ごとすべてをCGで構成しているのは、じつは全部で4カットくらいしかありません。その冒頭の部分を含め、印象的なところでCGの風景を差し挟んでいるので、見ようによっては全部CGに見えるかもしれないですね。僕も本編を見た方に同じようなご感想をいただいて「なるほど、そう見えるのか」と思いました。CG背景担当の方による、作画の背景との整合性の取り方が巧みだったおかげです。

――そうだったんですか! それは意外です。絵作りについてもうひとつ、キワさんが語る昔話のシーンがとても印象的でしたが、こちらの演出のこだわりについてお教えください。
川面 昔話のシーンはお話の構成上、3回入れる必要がありました。でも、ひとつの作品の中で昔話を3回も入れるというのは、演出の立場からするとちょっと多すぎるんです。そこで、見ているお客さんを飽きさせないためにも、本編とはまったく違った見せ方にしなければなりませんでした。では、実際にどうすべきかの話し合いのなかで、プロデューサーの方から「特殊な演出が得意なアニメーターさんがいるので、まかせてみましょうか」という提案がありまして。そこで「昔話のパートは本編とは別物にしてほしい」ということをお伝えして、お話の内容について打ち合わせをしたあとは、ほぼおまかせで作っていただきました。そのおかげで、非常に印象的な映像に仕上がったと思います。

――最後に、これから本作を見る方へ向けてメッセージをお願いします。
川面 子供から大人まで楽しめる作品として作りました。音楽もすばらしいので、できれば音響設備の良い劇場で見ていただきたいです。このコロナ渦では気軽に、というわけにはいかないかもしれませんが、本作をご覧になって、少しでも優しい気持ちになっていただけたらうれしいです。endmark

川面真也
かわつらしんや フリーランスのアニメ演出家。現在はSILVER LINK.やdavid production作品を中心に活動している。『ココロコネクト』や『ステラのまほう』『サクラダリセット』『のんのんびより』シリーズなどで監督を務めている。
作品情報

『岬のマヨイガ』
絶賛公開中!

  • ©柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会