TOPICS 2021.09.14 │ 12:00

少女たちの「自立」を描く
『岬のマヨイガ』 川面真也監督インタビュー①

とある事情で家を出た17歳のユイと、両親を事故で亡くしたショックで言葉を失った8歳のひより。行き場のないふたりが、謎の老婆・キワさんとの出会いを通して「マヨイガ」で暮らし始める――。そんな不思議で温かな物語を描く劇場アニメ『岬のマヨイガ』。本作で監督を務めた川面真也へのインタビュー第1回では、ストーリーやキャラクターについて聞いた。

取材・文/福西輝明

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

映画化にあたって大切にした「自立」というテーマ

――柏葉幸子さんの原作小説を読んだ感想はいかがでしたか?
川面 児童文学というカテゴリーの作品ではあるのですが、主人公の主婦・ゆりえがDVを受けていたり、小学生の萌花は両親との死別によるPTSDで失声症に陥っていたり、そしてキワさんは身寄りのない老人だったりと、意外にも重い内容を扱っていることに面食らいました。物語の舞台は「3.11(東日本大震災)」の爪痕が残る町ですしね。児童文学というと、もっと子供向けのライトなイメージがあったのですが、『岬のマヨイガ』には実際に現代社会が抱えている問題が盛り込まれていて。そして、こうした難しい問題に対して「こうすれば解決するよ」という一面的な描き方をしているのではなく、先へと踏み出すきっかけを与えてくれる落としどころに魅力を感じましたし、読み終わったときはとてもさわやかな気持ちになりました。

――その「先へと踏み出すきっかけ」が、この物語の核となる部分なのですね。
川面 僕はそう受け取りました。そして、映画化にあたって大切にしたかったのが、「自立」というテーマです。子供から大人まで、みんなそれぞれにさまざまな問題を抱えています。経済的なことから精神的なこと、いろいろなものに翻弄されずに生きていくために必要なのは、広い意味での「自立」です。それをスムーズにできる環境で生まれ育った人もいれば、そうでなかった人もいます。『岬のマヨイガ』では、問題を抱えて立ち止まらざるを得なくなった女性たちが、不思議な縁で巡り合って心の傷を癒し合い、そしてみずから新しい一歩を踏み出していく物語が描かれていました。大切なのは「当事者が自分で立ち上がり、再び踏み出せる場」を用意してあげることだと思うんです。たとえ悩みを抱えていたとしても、難しく考えなくていい。気持ちを楽に持って、立ち上がる元気が出てきたら一歩を踏み出せばいい。押しつけがましく「立て! 立ち上がって前へ踏み出せ!」と急き立てるのではなく、本人がみずから立ち上がれる環境を用意して、温かく見守ってあげる。僕が本作で描きたかったテーマはそこにあるんです。

――ユイもひよりも、周囲にぐいぐい背中を押されるのではなく、自分から歩き出していました。
川面 もし、立ち上がるのに助けが必要なら頼ればいいし、甘えられる相手がいるなら全力で甘えていい。映画では「マヨイガ」という形でユイとひよりに救いの手が差し伸べられましたが、どのようなきっかけでもいいから自分の意思で歩き出してもらいたい、という思いを原作から感じました。

「重さ」と「ライトさ」のバランスを追求したユイ

――原作では、夫からDVを受けている主婦のユイが、映画ではモラハラ父から虐待を受けている女子高生として描かれているなど、さまざまな点にアレンジが加えられていました。これらの変更にはどういった意図があったのでしょうか?
川面 原作が持つ「重さ」と、児童文学というカテゴリーが持つ「ライトさ」のバランスをどのように扱うべきか、制作の初期段階でさまざまな議論がありました。原作の重さを前面に出しすぎたら間口が狭くなりますし、かといってライトにしすぎたら、『岬のマヨイガ』という題材を扱う意味がなくなってしまいます。どのあたりでバランスをとるかを話し合った結果、原作でDVを受けている主婦のゆりえの年齢を少し下げて女子高生にすることで、ターゲット層の心にアプローチしやすいものにアレンジしたんです。脚本の吉田(玲子)さんは「ユイを女子高生として描くことで、みずみずしさをもってキャラクターの良さを伝えられるのでは」とおっしゃっていましたね。ただ、僕は原作からあまり変えずにやりたかったので、ユイ以外の設定は基本的に原作を踏襲しています。ですので、ひよりやキワさんに関しては、ほぼ原作通りです。

――原作では、ゆりえは「結」、萌花は「ひより」と別の名前を名乗りますが、映画では最初から「ユイ」と「ひより」という名前ですね。
川面 そのあたりは、単純に尺の問題から削ってしまったんです。ゆりえはDV夫の追跡を避けるために偽名を使った、というくだりがあるのですが、そこを映画に盛り込むと、お話の導入部で時間を取られすぎてしまうなと。映画の尺に合わせる都合上、いろいろなところを変更・割愛しましたが、大きく変えたのはユイの設定くらいで、あとは原作の良さを尊重して忠実に作ったつもりです。

作品情報

『岬のマヨイガ』
絶賛公開中!

  • ©柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会