TOPICS 2021.08.25 │ 12:00

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』特集(全3回)
シリーズ構成・横谷昌宏インタビュー

「海」と「コスメ」をモチーフに、カラッと明るいテイストが何より印象的な『プリキュア』シリーズ最新作『トロピカル~ジュ!プリキュア』。シリーズ初参加となるシリーズ構成の横谷昌宏に、このポジティブなテンションがいったいどこからやってきたのか、話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

今回、お話をいただけて念願がかなったという感じでした

――横谷さんは、今回の『トロピカル~ジュ!プリキュア』が、初めてのシリーズ参加になりますね。
横谷 そうですね。なので「どうして僕にシリーズ構成を?」という気持ちもあったんですけど(笑)。以前、各話脚本で参加した『ワールドトリガー』や『ゲゲゲの鬼太郎』の永富(大地)プロデューサーから電話をいただいたのが、最初のきっかけです。その永富さんから「ウチの村瀬(亜季/『トロピカル~ジュ!プリキュア』プロデューサー)が、横谷さんに次の『プリキュア』をお願いしたいと言っている」と。村瀬さんからは「(横谷がシリーズ構成を担当した)『Free!』が好きでした」と言われたんですけども、それは社交辞令だったかもしれない(笑)。どうして僕だったのかは、いまだによくわからないです。

――参加する前、『プリキュア』シリーズに対してどういうイメージを持っていましたか?
横谷 初代の『プリキュア』が放送されたのは、もう20年近く前ですけど、そのときにはすでにアニメ脚本の仕事を始めていて、見ていて「僕もやりたいな」と思ったんです。というのも、高校のときに『魔法のプリンセス ミンキーモモ』にハマって、そこがわりと自分の原体験としてあるんですよね。だから、いつか魔法少女ものとか女児向けのものをやりたいな、と。なので、今回、お話をいただけたことで、念願がかなったというか。これまでやったことがないシリーズでしたから――もちろん、不安はありましたけど、断るという選択肢はありませんでした。

――その時点で、プロデューサーから明確なコンセプトは提示されたのでしょうか?
横谷 僕のところに話がきた時点で「海(人魚)」と「コスメ」というのは決まっていました。あとは、前作の『ヒーリングっど』とはテイストをガラッと変えて明るい感じでいきたい。そこまでは決まっていましたね。

ローラの誕生秘話と、まなつを書くときの難しさ

――主役である夏海まなつ(キュアサマー)とローラ(キュアラメール)、ふたりのキャラクターをどのように作っていったのでしょうか?
横谷 そこは村瀬プロデューサーの尽力が大きいです。村瀬さん自身、今回初めてTVシリーズのプロデュースをやるということもあって「こういうことがやりたい」という強い思い入れがあったんです。それこそ、最初は部活を中心にエピソードが進んで、最後はみんなでこういうふうになる……みたいな、しっかりしたイメージが村瀬さんの中にあった。加えて、シリーズディレクターの土田(豊)さんもすごくこだわりがある方で、これまでやられてきた作品を見るとわかるんですけど、すごくはっちゃけたものが多いんです。なので、僕自身は、そこで出てきたアイデアをまとめる役どころというか。モチーフとしてまず「海(人魚)」と「コスメ」があって、そこに「今を生きる」というテーマが決まって……。ただ、「今を生きる」というとちょっと固苦しい感じがするので「今、いちばん大事なことをやる」にしよう、と。

――ということは、明快なコンセプトがあって、それを具体的なストーリーに落とし込んでいく、という流れだったわけですね。そこで鍵となるのが、やはりローラですね。プライドが高くて、ややもするとイヤな女の子に見えかねないと思うんですが……。
横谷 そこも企画の初期段階で、わりと議論があったところですね。普通に考えると、人魚の世界からやって来たプリンセスが、世界を救うためにプリキュアに変身する、という流れになると思うんです。だから僕も、ローラを次期女王という設定にして――もちろん、女王候補なので、そこそこプライドが高いキャラクターとして書いていたんですけど、それに対して土田監督から「二世を主人公にしたくない」というリクエストがあったんです。要するに、次期女王というと王族なわけで、女王になるのが当たり前じゃないですか。世の中には政治家にせよ何にせよ、いろいろな二世の方がいらっしゃいますけど、ローラはそうじゃないほうがいい。普通の女の子が「私は女王になるのよ」と言って、グイグイ成り上がっていくのがいい、と。

――ああ、なるほど!
横谷 『プリキュア』シリーズ的にはわりとキツい印象になるし、大丈夫なのかなって、議論もかなりしたんですけど、結果的にはすごくかわいくなって安心しています(笑)。そこはやっぱり絵の力もあるだろうし、役者さんの演技も大きいでしょうし。あと僕が基本、キツい女の子が好きというのもある(笑)。こういう性格の女の子なので、セリフひとつですごくイヤな子になっちゃうし、そこはすごく気を使ったところですけど、とはいえ基本は楽しく、迷わずに書いた気がします。むしろ苦労したということでいえば、まなつのほうが苦労していますね。

――いわゆるストレートな主人公キャラという印象ですが……。
横谷 そうですね。むしろストレートすぎて、引っかかりがないというか。もちろん、すごくよく動くキャラクターなので、話を転がすうえでは書きやすいんですけど、その一方で、この子の「今、いちばんやりたいこと」と考えると悩んでしまう。たとえば(涼村)さんごだったら、自分がかわいいと思うものを自信を持って「かわいい」と言えないとか、(滝沢)あすかだったら、生徒会長との確執がある、とか。そういう部分を乗り越えて、キャラクターって成長していくと思うんです。でも、まなつは基本的に他人に影響を与えるほうで、彼女自身はずっと変わらない。それはいわゆるヒーローの特性ではあるんですけど、じゃあ、まなつ本人の本質的な部分って何だろう?と考えると難しいなって。

――そこはやはり、ローラとの関係がドラマの軸になるわけですよね。
横谷 そうですね。まなつはローラが大好きだし、ローラもまなつのことが大好き。最初の頃は、あのふたりの関係性を頼りに書いていたところはあります。

作品情報

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜08時30分より放送中。

  • ©ABC-A・東映アニメーション