Febri TALK 2023.04.17 │ 12:00

藤澤慶昌 作曲家

①イマジネーションの原点となった
『となりのトトロ』

『ラブライブ!』や『宇宙よりも遠い場所』などの劇伴の他、アイドルや声優、J-POPアーティストへの楽曲提供も手がける藤澤慶昌。彼のアニメ遍歴から音楽家としての目覚めや思考を掘り下げるインタビュー連載。その第1回は、幼少期に見た『となりのトトロ』について。

取材・文/森 樹

『トトロ』の音楽は、もはや自分の身体の一部になっている

――まずは藤澤さんが幼少期に見たという『となりのトトロ(以下、トトロ)』を挙げてもらいました。
藤澤 私が育ったのはわりと厳しい家庭だったので、マンガやアニメをあまり見せてもらえませんでした。唯一、『聖闘士星矢』だけは見せてもらえたのですが、『ドラゴンボール』は友達の家で読んでいたくらいで。それ以外で触れることができたのが、「金曜ロードショー」で放送されたスタジオジブリ作品をダビングしたビデオテープだけでした。そこに『トトロ』や『魔女の宅急便』が収録されていて、そのビデオを何度も繰り返し見るのが週末のルーティンだったんです。

――それこそ、テープが擦り切れるくらいに。
藤澤 そうです。何回見ても飽きなかったですし、セリフもおぼえました。どこに惹かれたのかを考えると、もちろん、トトロのあのキャラクターがあったからだと思いますが、他にも生々しさや生活感があって、友達が体験しているお話のような親しみやすさがありました。アニメを見るというよりも、自分の世界と地続きの、身近な別の生活を覗いている感覚でしたね。

――当時、藤澤さんも『トトロ』のような自然豊かな場所に住んでいたのでしょうか?
藤澤 僕が暮らしていたのはベッドタウンだったので、そこまで自然豊かではなかったです。ただ、それほど整備もされていなかったので、ため池や雑木林が近くにあって、そこに「何かいるかも」と思わせる環境ではありましたね。祖母の家はもっと『トトロ』の世界に近かったですし、親戚の家の周辺は蛍がたくさん飛んでいたので、遊びに行くと「ここにトトロが」とか「まっくろくろすけが」と想像する楽しみはありました。

――『トトロ』は久石譲さんが音楽を手がけていますが、当時から劇伴やテーマソングに対して思い入れはありましたか?
藤澤 オープニング主題歌の「さんぽ」よりもエンディング主題歌の「となりのトトロ」が好きでしたね。イメージソングの「風の通り道」や他の曲も当時からおぼえていますし、音楽家になってからも、久石さん特有のコードやメロディの動き方が意識せずとも浮かぶので、いろいろなことを吸収できる幼少期に触れた『トトロ』の音楽は、もはや自分の身体の一部になっている感覚があります。

――当時は何か楽器を習っていたのでしょうか?
藤澤 エレクトーンを習っていて、『トトロ』の曲も耳コピして弾いていました。そんなこともあって、『トトロ』には音楽家としても多大な影響を受けていると思います。久石さんのピアノ三重奏のコンサートを見に行ったこともありますね。

劇伴は、情景と一緒でなければ意識に残らない

――その後もジブリ作品を見続けたのでしょうか?
藤澤 『もののけ姫』が高校生の頃に公開されて、3~4回、劇場に見に行きました。初回鑑賞時は、席に座れなくて立ち見だったことをおぼえています。『風立ちぬ』も劇場で見ていて、あれは久石さんの音楽も含めて完成された一作だと思いますね。ジブリ作品は『千と千尋の神隠し』にしろ『ハウルの動く城』にしろ、どれも人間の生き様をきちんと描いていますが、中でも『風立ちぬ』は自分と同世代の大人の話であり、ものづくりにおける葛藤や矛盾を描いていて、そこに感動しました。僕の中でジブリ作品は『トトロ』『もののけ姫』『風立ちぬ』の3作が大きいです。音楽的な面でも、イマジネーションをたくさん生む原点のようなものですね。

――音楽活動を始めるようになって、あらためて感じた久石さんの魅力はありますか?
藤澤  『STAR WARS』のジョン・ウィリアムズもそうなのですが、作品を見終わったあとにメロディが残るんですよね。基本的に劇伴は映像やセリフがあって、根底には物語があって、それを下支えする役割なので、メロディを残すのがすごく難しいんです。物語に集中しているなかで、音楽をおぼえて帰ってもらうことはなかなかできることじゃないですし、僕が劇伴を制作するときも、それは意識しながらやっています。

――物語を支えながらインパクトを残す難しさですよね。
藤澤 映画の中でただフレーズが繰り返されただけではおぼえてもらえないんです。情景と一緒に意識に残るようにしなければいけない。メロディを聞くと、その情景が頭に浮かぶような音楽は、劇伴を制作している人間としてはいちばん目指したいところなんです。久石さんが作る劇伴には必ずそういうポイントがあるのでびっくりします。

――情景との紐づけが強く感じられると。
藤澤 飛び出してもいないし、引っ込んでもいない。それでいて物語に寄り添って作られているから、意識していなくても物語と一緒にある。それがすごいなと思います。音楽的なところでは、オーケストラがどんどん大きくなっているという変化はあるのですが、根本的なメロディ、楽曲の物語への“残し方”が魅力だと思いますね。

――音楽家になった今でも、それを意識しいるところはありますか?
藤澤 映画の中で音楽にできることはそれほどないのですが、ないとダメなものでもあります。そこで何ができるかを考えたときに、映像の奥にある感情を表現するものとして音楽を使ってもらえるようにしたい。それは僕が目標としてきたことですし、『トトロ』をはじめとするジブリ作品できちんと描かれていることだと思います。endmark

KATARIBE Profile

藤澤慶昌

藤澤慶昌

作曲家

ふじさわよしあき 1981年生まれ。福岡県出身。ファイブエイス所属の作曲・編曲家。2006年から作家事務所に所属し、音楽家として本格的に始動。『電波女と青春男』で劇伴デビュー。2012年に現事務所へと移籍し、多くのアニメ作品に劇伴作家として参加している。近作に『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』『スパイ教室』など。

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