Febri TALK 2023.04.19 │ 12:00

藤澤慶昌 作曲家

②劇伴の仕事を始める原点になった
『カウボーイビバップ』

劇伴作家として活躍する藤澤慶昌に、影響を受けたアニメや劇伴について語ってもらうインタビュー連載。その第2回は、菅野よう子が音楽を手がけた『カウボーイビバップ』を取り上げる。テレビで偶然見かけて衝撃を受けたというオープニング曲「Tank!」との出会いが、彼を音楽とアニメの世界に呼び寄せた。

取材・文/森 樹

テレビから偶然聞こえてきた「Tank!」に衝撃を受けた

――2本目に挙がったのは『カウボーイビバップ(以下、ビバップ)』ですが、この作品を見たきっかけは?
藤澤 5歳上の兄の影響で、小学生の頃からロックにハマっていたんです。とくにMOTLEY CRUEやRattといったLAメタルを聞いていて、その流れでMETALLICAなどスラッシュメタルも聞くようになりました。高校時代、海外アーティストのライブ映像をよく流していたWOWOWに加入していた時期があって、何気なくテレビをつけたときに『ビバップ』がはじまったんです。それであのオープニング曲「Tank!」が流れて、「なんじゃこりゃ!?」となりました。

――SEATBELTS(シートベルツ)のジャズ・ファンクに衝撃を受けたわけですね。
藤澤 そのときに見たのがどのエピソードだったのかはおぼえていないのですが、とにかく「Tank!」の印象が強烈すぎて、「あれは何だったんだろうか」と白昼夢のような感じになりました(笑)。ちょうどファンク・ミュージックやジャズに興味を抱いて、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』にも夢中になっていた時期だったので、なかなか得難い興奮をおぼえました。ただ、結局当時は「『カウボーイビバップ』というアニメだったんだ」というところまではたどり着けなくて、そのまま高校を卒業したんです。

――そのときはまだ、どんなアニメだったかもわからずじまいだったんですね。
藤澤 はい。それで京都の大学に進学した頃、『ビバップ』がテレビで放送されていたのを偶然見かけたんです。「これだ!」といろいろ調べた結果、ちょうど劇場版の『カウボーイビバップ 天国の扉』が公開されているのを知りました。でも、京都の映画館ではかけられていなかったので、大阪の天満にある小さな劇場で3回くらい見ましたね。もちろん、サウンドトラックも購入して。

――音楽的にはどのような部分に惹かれたのでしょうか?
藤澤 音楽的な完成度はもちろんのこと、プロダクション(制作体制、編成)としても素晴らしかったです。クレジットを読めば、T-SQUAREに参加していたサックス奏者の本田雅人さんや、数多くのライブサポートや録音に参加されているドラマーの佐野康夫さんのお名前もあって。その豪華なメンバーをきちんと活かしていることに驚きがありました。

――劇伴を担当しているのは菅野よう子さんです。
藤澤 「この人に会ってみたい!」と思いました。それが、後に僕が(劇場版『ビバップ』を制作した)ボンズに就職することにもつながるんです。それくらい『ビバップ』には人生を変えられた印象があります。僕はなぜか学生時代の記憶がほとんどなくて、友達にも怒られるくらいなのですが(笑)、高校生のとき、リビングで「Tank!」が流れた瞬間の光景だけはしっかりと脳裏に焼き付いています。

――以降も、菅野よう子作品を聞き込んだのでしょうか?
藤澤 監督の渡辺信一郎さんの作品とともに追いかけました。『WOLF’S RAIN』のサントラも聞きましたし、さかのぼって『マクロスプラス』のサントラもかなり研究しました。久石(譲)さんの音楽と同じく、自分の筋肉になっているというか、劇伴を制作しているときも無意識にあのサウンドのイメージが湧いてくることがありますね。

「菅野よう子さんに会いたい」と思ってアニメ業界に

――ボンズに就職した話が出ましたが、『ビバップ』の影響でアニメに興味を抱いたということでしょうか?
藤澤 大学生の頃は音楽で食べていけるとは思っていなかったんです。ギターをやっていましたが、ライブハウスでプロの演奏を見て、これは無理だと思いましたし、作曲家にはどうやったらなれるのか、そのルートもわかりませんでした。その中で「菅野さんと仕事をしたい」という気持ちは残っていたので、ボンズに制作進行として就職することになります。とはいえ、会えるわけもなく、すぐに辞めることになったのですが……。

――菅野さんに会いたい一心で行動したということですよね。
藤澤 そうですね。退社したあとに作家事務所という存在を初めて知りました(笑)。その後、前の作家事務所に所属していたときに『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』に編曲(オーケストレーション)で参加したんです。それが初めての劇伴に関わる仕事になりました(※音楽担当は川井憲次)。

――巡り巡って、劇伴の仕事に就くことになったわけですね。
藤澤 それからアーティストものや『宇宙よりも遠い場所』『スロウスタート』といった作品の劇伴で、佐野康夫さんや渡辺等さんなど、SEATBELTSのリズムセクションの方々に演奏に参加してもらうことになりました。『ビバップ』とそのサントラを通して、自分が好きなグルーヴやリズム、ベースラインを知ることができて、それが作曲家や劇伴作家人生においても大きな力となったんです。なので、すべてのスタートは『ビバップ』と言えますね。

――作家としての原点をたどると、菅野さんとSEATBELTSに行き着くと。
藤澤 SEATBELTSは架空のバンドという設定ですけど、参加しているのは錚々たるメンバーですからね。『ビバップ』にあの音楽が乗っていて、エンディングにつながる流れは、今でも映像として「完璧だな」と思います。

――作品としても非常にクールで、スタイリッシュな内容ですよね。
藤澤 『ビバップ』も、人の生き様を描いた物語ですよね。スパイク・スピーゲルと、彼とすれ違っていくだけの人たちの間で起きるエピソードの中で、志を曲げないスパイクがすごく魅力的で。すれ違う人たちもキャラクターが立っていて、誰もが素敵に見える。そこにSEATBELTSのようなサウンドが彩(いろど)りを添えているというのは、理想的だと思います。endmark

KATARIBE Profile

藤澤慶昌

藤澤慶昌

作曲家

ふじさわよしあき 1981年生まれ。福岡県出身。ファイブエイス所属の作曲・編曲家。2006年から作家事務所に所属し、音楽家として本格的に始動。『電波女と青春男』で劇伴デビュー。2012年に現事務所へと移籍し、多くのアニメ作品に劇伴作家として参加している。近作に『連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ』『スパイ教室』など。

あわせて読みたい