Febri TALK 2022.04.22 │ 12:00

大野敏哉 脚本家

③誰かの「幸せのルーティン」を作る喜び
『スイートプリキュア♪』

インタビュー連載の最終回で取り上げるのは、大野にとって初めてオンエアされたアニメ作品となる『スイートプリキュア♪』。初めて子供向けの作品に参加することになった戸惑いから、オンエア後のプライベートな秘話まで、その裏側をたっぷりと聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

家族のような雰囲気の現場だった

――3本目は、大野さんがシリーズ構成と脚本を担当した『スイートプリキュア♪』です。オンエアは、2本目に挙がった『つり球』の1年前(2011年)になりますね。
大野 声をかけていただいて作業を始めたのは『つり球』のほうが早かったんですが、『スイートプリキュア♪』のほうがオンエアは先になったんですよね。

――それくらい『つり球』は、制作期間が長かったわけですね。
大野 長かったですね。制作している間に、東日本大震災もありましたし。オンエアのギリギリまで作っていたと思います。1回の会議も長くて――今は時代もあって、なかなかそんなことはないですが、『つり球』のときは半日くらいひたすら会議をして、タクシーで帰る……みたいな感じでした。

――そもそも大野さんが『プリキュア』シリーズに参加するのは、この『スイートプリキュア♪』が初めてですよね。どういうきっかけだったのでしょうか?
大野 これは当時、僕が所属していた事務所のマネージャー経由でいただいたお仕事でした。僕はこの前に何本か、少女を主人公にした青春映画の脚本をやっていたんです。それこそ『シムソンズ』とか『武士道シックスティーン』みたいな、何人か女の子が出てくる作品ですね。

――ああ、なるほど。それで大野さんがシリーズ構成に抜擢されたわけですね。
大野 『プリキュア』シリーズに新しい血を入れるにあたって、実写で少女ものをやっていた僕に声がかかったのかもしれません。とはいえ、依頼をいただいたときは本当に驚きました。『つり球』の作業が始まっていたとはいえ、それまでアニメの脚本をほとんどやったことがなかったので。

――ということは、『プリキュア』もそれまで見たことがなかったのでしょうか?
大野 聞いたことはあるけど、僕でいいのかな……という状態でした。なので、どうやって脚本を書けばいいのかさえわからない状態だったんですが、今振り返ってみると、すごくやりやすい現場でしたね。

――大野さんが参加した時点で、どれくらい企画は進んでいたのでしょうか?
大野 その時点で、企画書はあったような気がします。テーマは「音楽」で、主人公たちはキュアメロディとキュアリズムで……みたいな、ざっくりとした資料をいただいて。そこからシリーズ構成を書いたうえで内容を各話に割り振って、みんなで話し合って考えていった、という感じですね。プロデューサーの梅澤(淳稔)さんは、それまでに何本も『プリキュア』シリーズを担当されていた方なので、『プリキュア』のことを知らない僕にわかりやすく説明してくださいましたし、「ここはこうしたらいいんじゃないか」みたいなアイデアも、たくさん出していただけました。その一方で、僕らの意見も尊重してくれて、すごく自由に作らせていただいたな、と思います。

シリーズに新しい血を

入れるにあたって

実写で少女ものをやっていた僕に

声がかかったのかもしれません

――『つり球』とはまた違うチーム感があるスタッフ陣だった。
大野 そうですね。監督の境宗久さんも人格的に素晴らしい方でしたし、他のスタッフもみんな穏やかな方ばかりで、まるで家族のような雰囲気がありました。脚本会議のあとは、みんなで毎週のように飲みに行っていましたし、それこそ『トムとジェリー』感がありましたね。それと同時に、子供たちが喜ぶものを作っているという感触もあって。『プリキュア』の目的のひとつは関連玩具を売ることなので、早い段階で「ここで新商品が出るから、話を盛り上げてほしい」みたいな要望を聞くんですけど、それも「子供たちが喜んでくれるなら」と思えたし、まわりからの反響も大きかった。「誰かにとっての幸せのルーティンを作っているんだな」と。

――そういう意味でも、大野さんにとって忘れられない作品になっているわけですね。
大野 今回、『つり球』と『スイートプリキュア♪』の2本を挙げさせていただいたんですが、同じ脚本家の仕事でも、これだけ色の違う作品があるんだなと思えました。あと、これは個人的な話になるんですが、僕は2015年に再婚したんですね。妻にはそのとき、娘がふたりいたんですけど、いきなり知らないおじさんがお父さんになるのはハードルが高いですよね。だから、あらかじめ「この脚本を書いているおじさんだよ」と、妻が『スイートプリキュア♪』を見せていたんです。

――そんな隠れたエピソードが!
大野 その後、初めて娘たちと顔を合わせる機会があったんですけど、それは娘たちからすると「プリキュアのおじさんに会う会」だったんです(笑)。ふたりが持ってきた『スイートプリキュア♪』のグッズにサインをしたりして……。ある意味、『プリキュア』のおかけでスッと再婚できたというのもあります。今では娘はふたりとも立派なアニメオタクになっているんですが(笑)、そういう記憶もあって『スイートプリキュア♪』は大事な「やってよかったな」と思える作品になっています。

――なるほど(笑)。大野さんはもともと演劇や実写ドラマ・映画の脚本を書いていたわけですが、アニメの脚本を書いていて面白いと感じるところはどこでしょうか?
大野 今はすっかりアニメの仕事ばっかりになっているんですが、最初は戸惑いもあって、慣れない世界だったんです。でも、やっぱり「全然違う世界を描ける」というのは面白いですね。見ている人が、まったく架空の世界を求めていることもわかるし、スタッフとして想像力を試されることも多くて楽しいです。まだ何もないところから、みんなで話し合って、ひとつの世界のルールを作っていく。その醍醐味は、実写よりもアニメのほうが強いと思います。endmark

KATARIBE Profile

大野敏哉

大野敏哉

脚本家

おおのとしや 1969年生まれ。愛知県出身。実写ドラマ・映画の脚本家としてキャリアをスタートさせ、2011年に放送された『スイートプリキュア♪』以降はアニメにも進出。最近の参加作に『約束のネバーランド』『86-エイティシックス-』など。

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