TOPICS 2023.07.13 │ 19:00

放送5周年を迎えた『BANANA FISH』
福山潤インタビュー「李月朧から見たアッシュという光」①

キャスト発表時、「少女マンガの概念を根底から変えてくれた」と原作への愛を表明した福山潤。圧倒的な存在感で美しき華僑を演じる彼が語ったのは、李月龍の隠された思いとアニメへの希望だった。

取材・文/高野麻衣

※雑誌「Febri Vol.51」(2018年11月発売)に収録されたインタビューの再掲載です

原作を読み終えたあと「ロス」状態に

――月龍役が決まった経緯を教えてください。
福山 『BANANA FISH』の原作が大好きで、「アニメ化してほしい作品は?」と聞かれれば必ず挙げるほどでした。完結から20年以上経ち、もうないかな、と思っていたらアニメ化が発表されて。同時期に役の候補に挙がっていると伺い、喜んでお引き受けしました。月龍役は意外で、驚きましたね。

――原作にはどのように出会ったのですか?
福山 17歳くらいだったと思います。高校のときのクラスメイトに、さまざまなジャンルの面白いマンガを知っている友人がいて、彼に薦められて。マンガは大好きでいろいろなものを読んでいましたが、『BANANA FISH』は少女マンガと知って、最初は二の足を踏んだんです。それまでもアニメ化されていた『ちびまる子ちゃん』や『ときめきトゥナイト』とか、少女マンガに触れる機会はゼロではなかったのですが、ほぼ未知の世界。

でも、読み始めたらまあ面白い。ベトナム戦争から始まるし、キャラクターの線も太くて、どちらかと言うと大友克洋さんや浦沢直樹さんの作風に近い。しかも、女性が全然出てこない。「あれ、これ少女マンガだよな?」と(笑)。黄色いコミックスを1巻ずつ借りて、高校卒業のタイミングで13巻くらいまで読んで。上京して、バイトをしていたコンビニで文庫版を買って、一気に読みました。

――読み終えたときは、いかがでしたか?
福山 いわゆる「ロス」状態です。コンビニの事務室でうなだれましたね(笑)。じつは、文庫版2巻のあとがきで結末を知ってから読んでいたのですが、知っていることを忘れるくらい作品を満喫しちゃって。だから、最後のシーンを見て滂沱(ぼうだ)の涙でしたね。何部作にもわたる長編の映画を見終わったようでした。

――心に残ったセリフや場面はありますか?
福山 作品全部が印象的でした。感情移入して読んでいたのはショーター。それとブランカが出てきてからは、アッシュの優秀さの背景がわかってくるのが楽しくて。アッシュは自分のことを語らないので、サブキャラクターによってバックボーンが見えてくる。そういう人物描写への思い入れも強いですね。だからゴルツィネも好きなんですよ。

月龍は孤独の中でアッシュを知り、生きていくうえでの光が見えた

――李月龍の第一印象はいかがでしたか?
福山 月龍の登場まで、少女マンガ的な耽美なキャラはアッシュと英二だけで他は大人のドラマだったので、異分子が入ってきたなって印象でしたね。当時は自分が演じるとは夢にも思わず、そのうえショーターが好きだったので「お前……!」みたいな。単純に嫌な奴だと思っていました(笑)。

でも、今回のアニメ化にあたりあらためて読み返して、まったく印象が変わりましたね。月龍は、お母さんが殺されていることと、李一族の血が入っているのに出自の問題で軽んじられ、汚い部分を担わされていることが理由で、ものすごい反骨精神があるんですよ。これってすごく濃いドラマです。それに気づくと、アッシュにあって月龍にないもの、アッシュと違って月龍が固執してしまうものなどの対比が面白くなりました。

――月龍が固執してしまうものとは、「血の呪縛」のようなものでしょうか?
福山 そうですね。アッシュの評され方として、よく「奴は野性の獣で、心酔するか敵対するかどちらかしかない」と書かれていますよね。アッシュは才気があって、ゴルツィネの組織である意味センセーショナルなデビューをして、後継者として先も約束されているんだけど、その道を選ばない。ストリートでも異端のボスとして君臨し、誰の支配も受けようとしない。自分で道を選んで、自分で生を全うしようとしているんです。

一方、月龍は李一族、ひいては華僑という大きな枠組みの中から抜け出すことをあらかじめあきらめている。もし、バナナフィッシュを巡る出会いがなければ、迷いなく、自分がそこで生きていくという覚悟と野心だけを全うしたかもしれない。ふたりは同じように才気あふれる少年なんですけど、生きているフィールドが違うんです。

でも、月龍は孤独の中でアッシュという存在を知り、理解者が存在するかもしれないという、生きていくうえでの光が見えちゃった。もしかしたら友人になりたかったのかもしれない。英二がいなければ、それは彼にとって救いだったかもしれない。でも、完璧超人であるアッシュが、英二が関わると隙もできるし弱くもなる。これって彼にとって残酷だったと思うんですよ。それは英二の存在が許せなくなりますよね。二重の嫉妬心かもしれません。だから月龍は英二に宣戦布告することで、自分の思いをアッシュに伝えることから逃げるんです。これって、月龍のプライドだったんだろうと思います。

――大変、興味深い分析です。
福山 月龍を演じることになって、『BANANA FISH』をもう一度違った角度で楽しませていただけていると思います。ショーターに「毒蛇」と呼ばれたときの表情も、最初は心が決まっていないという指摘に対してだと思っていたんですが、いざ自分が演じると違ってきました。あのときショーターは、義侠心や友情のために李一族に背こうとしていた。そういう人間をねじ伏せることは、一族が自分や自分の母親に対してやってきたことと同じだという客観的事実を突き付けられ、それにショックを受けたんですね。でも、その感情を殺してでも進まないといけない。そこで偽悪的な言動をして、自分のアイデンティティを保とうとしていった。そう考えると納得がいくんです。

月龍にとって、いちばん大切なものは自分の意思

――第10話でアッシュにつぶやいた「ショーターには気の毒なことをしたね」というセリフひとつにも、そうした葛藤を感じました。
福山 月龍にとって、生きていくうえでいちばん大切なものは自分の意思です。アッシュは誰にも支配されず、自由に生き方を選んでいるからこそ共感したんです。自分は支配される側にいくけど、面従腹背(めんじゅうふくはい)の意思があるから、地獄でも生きていける、と。理知的な人って、おそらくそれが重要なんですよね。しかし、バナナフィッシュという薬はそれを捻じ曲げてしまう。それがおぞましかったということと、それをショーターに与える結果になったことに対する――贖罪だけではない、いろいろな意味を込めたセリフだったんじゃないかと感じています。

――月龍が初登場した第7話で、その場を支配する福山さんの声の存在感に感嘆したのですが、こうしたキャラへの理解ゆえと感じました。
福山 僕は原作が本当に好きなので。でも、好きすぎる作品ってリスキーでもあるんですよね。演じるときはあまり囚われないように、収録に入る前に1回だけ読み返したんです。自分が描いたもの、感じたものがどこまで今回のアニメーションに適しているかは、やっぱり監督、音響監督、プロデューサーといった制作サイドの方々に委ねています。endmark

福山潤
ふくやまじゅん BLACK SHIP株式会社所属。1997年声優デビュー。初代声優アワード主演男優賞、東京国際アニメフェア2009声優賞など数々の受賞歴を持つ。主な出演作に『コードギアス 反逆のルルーシュ』ルルーシュ・ランペルージ役、『おそ松さん』一松役など。
作品情報

『BANANAFISH』
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  • © 吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH