TOPICS 2023.05.24 │ 12:00

伊達さゆりの「手さぐりの旅」第8回 いつかこんな風に思える日が来てほしいと感じた
YOASOBIさんの「アドベンチャー」(中編)

YOASOBIの「アドベンチャー」がテーマとなった、伊達さゆりのフォト&インタビュー第8回。中編ではコロナ禍の情勢下で考え続けていた内心を掘り下げつつ、新鮮に感じたという楽曲のお気に入りポイントを語ってくれた。

取材・文/編集部 撮影/松本祐亮 ヘアメイク/三反理沙子 スタイリング/佐野夏水

コロナ禍の深刻さは東京に来てから実感した

――第8回のテーマとなった「アドベンチャー」は「レンズ越しの煌めきを」という、とある学生のコロナ禍の大学生活とUSJのエピソードがベースになっています。伊達さんは前回の連載で「コロナ禍で個人的に大きく生活が変わった実感はなかった」と話していましたが、周囲の人たちから悩みを聞くことはありましたか?
伊達 コロナ禍がいちばん厳しかった頃はまだ宮城にいて、そのときに入ってくるのはやはり宮城周辺の情報がほとんどでしたし、まわりにいる人たちからも「コロナに罹って症状が出た」といった話はあまり聞きませんでした。東京に出てきてから「いろいろなことが変わってしまった」という話を聞いて、ようやく事態の大きさがつかめて、ぞわっとした感じがあります。

――感染者数からして他の地域とは違いますからね。
伊達 実際にコロナに罹った方の入院中のエピソードなどをニュースで見て、危険だということは理解できるのですが、どこまで気をつけていれば大丈夫なのかもわからない。家に籠って、人と接することを避ければいいのかなと思っても、生活していくうえでそれをずっと続けるわけにもいかないですし、厳重に対策をしていても罹ったというような話も聞こえてくるし……じゃあ、自分はいったいどうすればいいんだろう?と皆さん思ったはずですし、私も思いました。

――どれくらいの対策を、いつまで続ければいいのか見通せない、というのがいちばん不安になる要因だった気がします。
伊達 まだ収束していないとはいえ、状況が少しずつ落ち着いてきた今、自由にお出かけをしたり、人と人との関わりがこんなに大切なことだったんだなと思い知ったような気持ちでいます。それを「コロナ禍のおかげ」とは絶対に表現したくないのですが……。誰に感謝をしていいのかわからない状態ですね。

「かわいそう」と言われて感じる疑問

――東京に来た伊達さんとは別に、地元のお友達もそれぞれ新しい生活に移っていったと思うのですが、そこでコロナ禍の話題が出ることはありましたか?
伊達 あまり聞いたことがなかったです。もともと友達がたくさんいるタイプではなくて、すごく仲のいい子が数人、という感じでしたし、その子たちと毎日のように連絡をする、というわけでもなかったので。ただ、連絡を取るときは、みんなその話題をあえて避けていたようなところがあります。新生活にコロナ禍が重なって大変だということはお互い理解していたので、落ち込む話題よりも楽しいことを話したい、という気持ちがやりとりの文章からも感じられましたし、私も自然とそういうメッセージを送っていたような気がします。

――たしかにそれが自然な気持ちかもしれません。
伊達 「アドベンチャー」のもとになったエピソードを書いた学生の方も、私くらいの年代なんですよね。期待を胸に進学したのに、思うような学生生活を送れなかった人たち……。「思い描いていたものと違う」という方もいらっしゃると思うのですが、逆に「大学生の毎日ってこんな感じなのか」と納得してしまうところもあると思うんですよね。コロナ禍のせいで基準が変わってしまったというか。

――他の世代が過ごしてきた「普通」の学生生活とのギャップ自体がわからない、ということですね。
伊達 そうですね。「普通」がそもそもわからない。傍から見ていて「いろいろなところに遊びに行きたい年頃なのにかわいそう」と思われても、私たちにとっては初めて体験することなので「そういうものなのかな?」と思うこともあるんです。実際、私も何度か「かわいそう」と言われたことがあって。でも、わからないから何も言えないんですよね。「私たちって、かわいそうなんだ?」と考えてしまうことがあります。

ずっと右肩上がりに高揚していくのが新鮮だった

――「アドベンチャー」はコロナ禍が少しずつ解けてきた現在の、明るい兆しへの希望を込めた楽曲だと思うのですが、「ここが好きだ」と感じるポイントを教えてください。
伊達 私は楽曲を聞きながら歌詞を見ると歌詞に入り込めないので、聞く前にまず歌詞だけを読む癖があるのですが、コロナ禍でつらかった心境を反映したフレーズが序盤に出てくるんですよね。とくに「こんなんじゃない」と歌っている箇所は歌詞だけを見るとけっこう重い印象がありますし、もがいている感じなのですが、バックではパーカッションが軽やかに入っていて、楽曲になるとこんなに違う印象になるんだ、と驚きました。そこからサビに向かうBメロあたりからは「ずっと待っていた扉が開く寸前まで来ている」という感じがあって、楽曲の中でもとくに好きな部分です。そこからは明るいイメージで駆け抜けていくんですよね。

――たしかに山があって谷があって、それをいくつか繰り返す、というのがセオリーだと思うのですが、この楽曲は歌詞も含めて右肩上がりのまま進んでいく印象ですね。
伊達 1番のAメロ、Bメロのあと、サビで盛り上がって、2番のAメロ、Bメロでは少し落ちついて、2番のサビでまた盛り上がる……というのが私の中でもなじみのある流れなのですが、この楽曲はコロナ禍で落ち込んだ気持ちが冒頭にあっても、その後のBメロからはずっとテーマパークに本当にいるような、ワクワクした高揚感が伝わってくるんです。それがすごく新鮮で、面白い楽曲だなと思いました。endmark

撮影協力

浅草花やしき
住所/東京都台東区浅草2-28-1
営業時間/10:00~18:00(季節・天候により異なります)