「心の機微を書く」がチームの指針に
――米内山さんは、『mono』に続いてソワネ作品を手がけることになりましたが、どういった流れで参加することになったのでしょうか?
米内山 まさにその『mono』を制作中にソワネさんとアニプレックスさんからお声がけいただいたんです。いざ原作マンガを読んでみると、関係性によって物語を牽引していくところが肝であると感じて。これはシナリオを書くのもひと筋縄ではいかないな、とハードルの高さを感じましたね。
白坂 米内山さんからお話をいただいて原作マンガを拝読したとき、面白いことは前提として、とてつもない難易度の高さを感じましたね。かなり繊細な雰囲気を汲み取らなければ、原作マンガの雰囲気を再現することができないなと。
篠塚 少しアート寄りの雰囲気も感じ、完成した映像の想像ができなかったんですよね。ただ、米内山さんが「心の機微を書いてほしい」と指針を示してくださったことで、突破口が開けた気がしました。私は下戸なので、ついていけるかなと不安を感じていたんですけど、それなら大丈夫だなと心強く思いました。
――原作もストーリーが進むにつれて、キャラクターの表情、セリフの持つ言外の意味の重要度が増していきますが、そういった点がシナリオを執筆するうえで肝となったのですね。
米内山 ぼたんといぶきをはじめ、彼女たちの関係性は断定すると壊れてしまうようにも感じたので、いろいろなニュアンスを感じられるシナリオにしていきたいと考えていましたね。なので、私と白坂さん、篠塚さんとですり合わせつつ、解釈の幅をいくつか用意できるシナリオにしていくことを第一に考えました。
白坂 舞台を作るときには、役者さんとセリフの解釈について話し合うことがよくあるんです。セリフに込められた感情を表すために、どういった仕草を取るべきか。舞台の場合、脚本・演出・役者が稽古場で直にディスカッションをして作り上げることができます。ところがアニメの場合、自分たちの作業の先にも何人ものスタッフが関わります。なので、シナリオにさまざまな可能性を込めることが大事だと考えたんです。
――2024年春に米内山さんと塀先生が顔合わせをした際に、シリーズ構成案を作成していたそうですね。その際に意識していたことを聞かせてください。
米内山 各話のうねりも大事ですが、TVシリーズですから、キャラクターの「感情ライン」が一辺倒にならないように意識しました。そのために、あらかじめ原作を読み込んで、寮生の6人が各話でどのような感情を抱いているのか、グラフも作成しています。そして原作のある地点までを描くと仮定して、全12話のシリーズ構成を作成しました。
白坂 その表があったからこそ、各話のシナリオにとりかかる際に「ここで誰がどんな感情を抱いていたのか」といったことを確認しながら作業することができたんです。とても重要な指針になりました。
米内山 また、序盤のエピソードでは、塀先生ご自身も作品の方向性を決めあぐねていたそうなんです。そこで、シナリオでは中盤以降のエピソードに合わせてキャラクター感を調整しています。ただ、ぼたんに関しては、第1話時点では寮に入りたてで浮き足立っている部分もあるはずで、そこをオミットしてテンション感を統一してしまうのも何か違うなと。『上伊那ぼたん』は、ぼたんがだんだんと自分の求める何かを発見していき、「核」を築いていくお話でもあると感じていたので、うまいさじ加減を目指して調整しました。
――アニメのストーリーは、基本的には原作のエピソード順に沿って展開しますが、第2話は少しだけ順序が異なっています。
米内山 原作通りに描くと、ぼたんといぶきがピアスを取り置きするエピソードは第2話の中盤くらいに入るはずなんです。ただ、この出来事の前と後でふたりの距離感が大きく変わるので、なるべく印象に残るように描きたい。そこで塀先生にも確認したうえで、第2話のラストに配置することにしました。
キャラクターの感情を「確定させない」ことを意識した
――皆さんがそれぞれ、本作のシナリオ執筆時に立てていた指針はどんなものでしたか?
米内山 いかにト書きの湿度を上げられるか、ですね。たとえば、原作に風が吹いているコマが描かれていたとして、他の作品であれば「風が葉を揺らしている」くらいにしか書かないと思うんですよ。でも、『上伊那ぼたん』ではどんな風に葉が揺れているのか、木漏れ日は見えているのか、葉はどんな色をしているのか、陽を反射して光っているのかまでニュアンスを汲み取らないと、原作を読んでいる際に感じた思いが再現できないと考えていたんです。また、いつもはサラッと書かれているト書きが何行にもわたっていれば、絵コンテを切る方も情景で魅せてくださるはずですから、テンポコントロールの意味もありました。
白坂 米内山さんがその方向性で第1~2話を突っ走ってくださったので、とても参考になりました。それを踏まえて、自分は緩急を意識してシナリオを書いていましたね。キャラクターのかけ合いが中心のパートはト書きがあまりないんですけど、ヤマ場となるシーンになるといきなり7〜8行書く、といった具合でテンポ感を重視していた記憶があります。
篠塚 私も同じく丁寧に描写を拾うことを心がけましたが、加えるならば、他のスタッフさんの反応を見て描写を膨らませていくことです。本読みは修正したい箇所に関する指摘が大半ではあるのですが、スタッフの皆さんが読み進めながらよかった点に反応を示してくださって。それを受けて「この描写は大事にしたい」と考えながらシナリオにトライすることができましたし、前向きに書き続けることもできて、とても助かりました。
――ぼたんやいぶきをはじめ、キャラクターたちの関係性をシナリオに反映するにあたって、気をつけたことは何でしょう?
米内山 先ほど触れた話にも通じますが、彼女たちの感情をはっきりと確定させないことを意識しました。なんとなくここで惹かれ始めたんだろうな、ということはわかるけれど、断定するような描き方は原作でもされていません。また、私たちも他人のことをどう思っているか、その日によって変わりますよね。シチュエーションや雰囲気、接し方などによって気分が上下しますから。
篠塚 簡単にラベリングしない、ということですよね。「ぼたんといぶきだからこう」なんてことは考えず、その場面ごとにどう描くべきかを考えていた気がします。
――そうなるとチームでシナリオを担当している都合上、たとえば、ぼたんといぶきの関係性において、ライターごとに少しニュアンスが異なる……なんてこともあったのでは?
米内山 そこはもうすり合わせるしかないですね。すり合わせをしながら、相手の思いをうかがい知ろうとしつつ、自分の気持ちをしっかりと持っている彼女たちの様子を描くことに注意を払っていました。![]()
- 米内山陽子
- よないやまようこ 劇作家・演出家・舞台手話通訳家。主な参加作品に『パリピ孔明』『ゆびさきと恋々』『mono』(シリーズ構成・脚本)、『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』(脚本)など。
- 白坂英晃
- しらさかひであき 脚本家・演出家・俳優・演技講師。劇団「はらぺこペンギン!」主宰。主な参加作品に『真夜中ぱんチ』『ンめねこ』(シリーズ構成・脚本)、ゲーム『22/7 音楽の時間』(メインストーリーシナリオ)など。
- 篠塚智子
- しのづかともこ 脚本家。主な参加作品に『レプリカだって、恋をする。』(シリーズ構成・脚本)、『ももくり』『ヲタクに恋は難しい』『天才王子の赤字国家再生術』『Unnamed Memory』『君は冥土様。』(脚本)など。



























