TOPICS 2022.12.08 │ 12:00

今、映画『すずめの戸締まり』を作る理由 監督・新海誠インタビュー①

11月11日に公開された映画『すずめの戸締まり』。『君の名は。』『天気の子』で大ヒットを記録した新海誠監督の最新作だ。「観客に届けること」をこだわり抜く新海監督は、本作で何を描き、伝えようとしているのか。これまでの作品とその反響を振り返りながら、新海監督に話を聞いた。

取材・文/青柳美帆子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

観客の声に導かれた「次に作る映画はこっちの方向なんじゃないか?」という感覚

映画『すずめの戸締まり』のヒロインは、九州に住む17歳の女子高生・岩戸鈴芽(いわとすずめ)。不思議な青年・宗像草太(むなかたそうた)との出会いをきっかけに災いの元となる“扉”を閉じるため、日本を縦断する旅に出る――というロードムービーになっている。新海監督は本作について「『君の名は。』『天気の子』という映画を作って公開してきたことが、僕にこの映画を作らせてくれました」と語る。

「僕は作家としてのロードマップやキャリアパスというイメージがまったくないタイプで、毎回毎回白紙のところから『次は何を作ろうか』と考えています。でも、少なくとも、僕はもともとは『すずめの戸締まり』のような映画を作る作家ではなかったような気がするんです。もう少し内省的だったり、日常のちょっとした瞬間を切り取ってアニメーションを作ることを昔は続けていたように思う。10年前の自分がこの映画を見たら、自分が作ったものだと思えないかもしれません」

自らも語るように、新海作品の変化は大きい。変化が加速していると言ってもいいかもしれない。『ほしのこえ』(2002年)や『秒速5センチメートル』(2007年)といった2000年代のキャリア前半の作品では、作品の雰囲気に通底するものがあり、ファンから強い支持を受けていた。しかし、『君の名は。』(2016年)が興行収入250億円という爆発的なヒットとなったことで、新海監督の名前はそれまでのファン層とはまったく違うところまで届いた。その結果、これまでにないさまざまな声を浴びた経験が『天気の子』(2019年)につながった。そして、そこでの声がさらに、本作『すずめの戸締まり』を形作っていく。

「一本映画を作って出すと、いろいろな声が来ます。褒めていただけることもあれば、批判されることもある。真っ当な批評もあれば、作品の意図が届かず激しく怒られてしまうようなものもある。ひとつひとつに対して言葉を返していきたいという気持ちもありますが、それよりは新しい映画を作って見てもらうことで、過去作についてわかってもらえたらうれしいな、ということを思っています。本作がこういう映画になったのは『君の名は。』や『天気の子』を見てくれた観客の声、今まで聞いてきた声の総体のようなものに導かれたからという感覚がありますね。『あなたが次に作る映画はこっちの方向なんじゃないか?』と」

新海監督は、観客の声をものすごくよく聞く人だ、という印象がある。『君の名は。』や『天気の子』で驚いたのは、公開後にサイト上で質問を募り、一問一答形式で答えていたこと(そのQ&Aは第2弾劇場パンフレットに収録、完全版として映像ソフトのブックレットにも収録されている)。そこで寄せられる質問は「そこを聞きたかった!」と膝を打つものもあれば、「えっ、そこまで聞くのは野暮じゃない?」と思うものもある。新海監督はそのどちらにも丁寧に答えている。それは観客へのサービスなのだが、どの層にどれだけのことが、自らが意図していたように届くのか……ということを深く探りにいくようにも見えた。観客がどう感じるかを強く意識したうえで、物語を世に出す新海監督。『天気の子』では、主人公・帆高の行動に賛否が寄せられるだろうと予想をし、事実、それは観客によって受け取り方が異なった。

「『天気の子』の反響は、ある程度は予想していたけれど、実際言葉になるとけっこうショックなこともありました。賛否の数を比べたわけではないからわからないけれど、帆高の選択に対して『共感できない』『嫌悪しかない』という意見は、決して少なくはなかった。僕はそれで『もっと考え尽くさないと』と思ったんですね。その人たちは劇場まで足を運んでくれたけど、映画を見ながらどこかで気持ちが離れてしまって、残りの時間を離れた気持ちで眺めさせてしまったわけじゃないですか。だから『すずめの戸締まり』は、観客が映画とコネクトし続けている体験にできたらと思いました」

ひとりのキャラクターに感情移入させる作りでは、そのキャラに一度共感できないポイントがあると、映画そのものから心が離れてしまう――ということがありうる。『すずめの戸締まり』のヒロインは鈴芽だが、彼女のモノローグはこれまでの作品と比べるとぐっと少ない。その代わりというわけではないが、窮地に陥る草太の独白や、鈴芽の叔母・環(たまき)の言葉、旅の中で鈴芽が出会うさまざまな人々との会話が印象的だ。

「本作はロードムービーなので、鈴芽はさまざまな人に出会います。どのキャラクターでもいいから、観客が『自分とつながっている』と思える部分があるようにしたかった。そのためにもキャラクターの幅を意識しました。見終わったあとに、お気に入りのキャラクターを見つけてもらえるとうれしいです」endmark

新海 誠
しんかいまこと 1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人制作の短編作品『ほしのこえ』で商業デビュー。その後、『雲のむこう、約束の場所』(04年)『秒速5センチメートル』(07年)『星を追う子ども』(11年)『言の葉の庭』(13年)を発表。2016年公開の『君の名は。』は社会現象を巻き起こす大ヒットとなり、2019年公開の『天気の子』も同年の国内興行収入1位を記録するなど、国内外から高い評価と注目を集めている。
作品情報

映画『すずめの戸締まり』
大ヒット上映中

  • ©2022「すずめの戸締まり」製作委員会