弟・研二との最後の会話は青山先生に丸投げ!?
――大倉さんが劇場版の脚本を担当するのは、今回で5回目ですね。
大倉 そうですね。2年に一度という感じで、定番になりつつあります。
――まずは今作の「神奈川県警」「横浜という舞台」「バイクレース」といった骨格がどのように固まっていったのか教えてください。
大倉 最初の打ち合わせの時点で、青山先生から「今回は千速をメインでやる」ということをお聞きしたんです。「神奈川県警」や「横浜」はそこから自然と固まっていきました。
――千速ありきだったんですね。
大倉 はい。その当時の千速は原作でもそこまで露出は多くなかったので、素直に彼女のキャラクターや属性に合わせていったほうがいいだろうというのが僕の考えでした。なので、打ち合わせでも「千速は白バイ乗りだから、ストレートにバイクアクションでいきましょう」と。しかも神奈川県って横に広くて、山もあれば海もある。バイクアクションがかなり映える舞台なんです。結果論ではありますけど、千速が神奈川県警所属ですごく助かりました。
――そのバイクアクションも、高速道路から峠道、市街地と、本当にバラエティ豊かでした。
大倉 バイクアクションを考えたときに、最初に浮かんだのが箱根ターンパイクとか、箱根の旧道とか、あの辺りでした。ああいう曲がりくねった山道でアクションができたら面白いだろうなというイメージが最初からありましたね。
――萩原千速という人物について、大倉さんは彼女をどう捉えて描きましたか?
大倉 最初は結構華やかで、オールマイティで「安室(透)の女性版」みたいな感じなのかなと思っていたんです。でも、よくよく考えてみると、彼女は弟(萩原研二)を殉職で亡くしているんです。そういう悲劇を経験しつつ、それでも警察官であり続けている人なので、華やかなだけではないだろうと思うようになりました。見えないけど、心の奥にはかなり「影」の部分というのもあるんじゃないかなと。
――なるほど。今回は、弟・研二を亡くした11月7日にまつわるエピソードが描かれていますね。
大倉 千速が初めて劇場版に出てくるわけですから、研二のことに触れないわけにはいかないですよね。殉職した当日、彼女が研二と何を話して、どんな別れ方をしていたのかというのは、今の彼女を形作るうえですごく重要な部分だと思うんです。とはいえ、僕にはそのシーンは描けないし、僕が描くべきでもないので、青山先生に「ふたりの最後の会話を描いていただけませんか?」とお願いをして、それでこのエピソードが実現しました。言ってしまえば青山先生に「丸投げ」をしたかたちなのですが(笑)、素晴らしいセリフとシチュエーションを描いてくださって、ほぼ青山先生の描いたセリフそのままで映画化しています。
――じつはそこに(横溝)重悟が絡んでいたというのも驚きでした。
大倉 あれも青山先生のアイデアなんです。僕なんかではまったく思いつきもしない発想だったので、「さすがです!」としか言えないです。
ストレートには進まないふたりの大人の魅力
――その重悟についても、今作でかなり深掘りされましたね。千速との絶妙なラブコメも印象的でした。
大倉 重悟は割と初期から登場している古株のキャラクターですが、恋愛観やプライベートなどはあまり描かれていないんですね。これは僕には手に負えないなと思って、素直に青山先生に「どうしましょう?」と相談したら、またそこでいろいろなアイデアをいただきました。結果的に青山先生に頼ってばかりで、感謝しかないです。
――一見すると天然な千速が重悟を振り回しているようですが、重悟がそれをすべて受け止めているのが素敵ですよね。
大倉 重悟は明らかに千速のことが好きなわけですよ。ただ、そこをギリギリのところで口には出さずに、千速の無茶振りに付き合っている感じですよね。あと、個人的には重悟の声がすごく好きで、あのカッコいい声で千速にいいようにやり込められているのもツボだったりします。
――大塚明夫さんが演じる三枚目キャラはレアですからね。ちなみに、ふたりの関係性は今後どうなっていくと思いますか?
大倉 ふたりとも心の根底にはハードボイルドが流れているので、なかなか難しそうですね(笑)。仕事に恋愛を持ち込むことをよしとしないタイプというか、そこは佐藤・高木のようにストレートにはいかないと思います。ただ、そんな毅然とした態度を残したまま少しずつ距離が縮まっていくのがふたりの大人の魅力だと思うので、やっぱり僕は重悟が好きですね。

――空から落ちてくる千速を、重悟が「お姫様抱っこ」でキャッチするというクライマックスが最高でした。
大倉 青山先生と話し合いを進めるなかで、ベイブリッジでのアクションを経て、最後は「重悟のお姫様抱っこ」で締めるというオチは、かなり初期に固まっていました。でも、映像であんなにキラキラしたシーンになるとは想像もしていませんでした。受け止められた千速も少し頬を赤らめていましたが、僕の脚本上ではそこまでの描写はなかったので、素晴らしい演出だなと思います。
――一方で、コナンは世良にキャッチされていましたけど、あれも良かったですよね。
大倉 良かったですね。世良は、下手をすると今回の劇場版では割りを食ってしまいそうな立ち位置だったんですけど、最後にあのシーンがあることで全然印象が違いますよね。しかもあの瞬間、世良が「ニヒヒ」っていう絶妙な表情をしているじゃないですか。じつはあれも青山先生のアイデアで、それもすごく効いていましたよね。最後のあの表情で世良の存在感が一気に際立った気がするし、そこはあらためてアニメーションの醍醐味を感じました。脚本段階では、あのラストの存在感や爽快感は表現できていなかったので、そこは監督をはじめ、スタッフの皆さんの作画や演出に感謝です。![]()
- 大倉崇裕
- おおくら・たかひろ 1968年生まれ。京都府出身。小説家、推理作家、脚本家。主な小説の著作に『福家警部補の挨拶』シリーズなどがある。『名探偵コナン』シリーズでは、劇場版第21作『から紅の恋歌』、第23作『紺青の拳』、第25作『ハロウィンの花嫁』、第27作『100万ドルの五稜星』の脚本を担当。

























