TOPICS 2022.12.21 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第7回(後編)

第7回 安彦良和とアムロ・レイ

前作に引き続きキャラクターデザインを担当した『機動戦士Ζガンダム』だが、安彦良和氏としては不本意な作品となったという。1985年当時のアニメ制作現場はどういう状況だったのかを語ってもらった。また、記事の最後には、今回のインタビューについての、古谷徹からのメッセージも掲載している。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

『ククルス・ドアンの島』のアムロ

――『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』ではアムロの頭身が少し変わったように思いました。より子供っぽくなっているというか。
安彦 それは子供の中にいるから、そうなるんですよ。あの子供の集団の中ではお兄ちゃんだけど、それで仲間外れになるよりは擦り寄って輪の中に入れたほうがいいでしょう。だから子供っぽくなるし、本来の15歳の少年に戻れるんです。ホワイトベースや軍の中にいるときは逆に背伸びをしていて、周囲の大人たちに合わせている。しかも、ある種の英雄ですからね、大人っぽくなっていくのは当然です。だから、あれが本来のアムロの姿だということでもあるんですよ。

――古谷徹さんの演技はいかがでしたか?
安彦 40年前のイメージを裏切らないように、ものすごく努力されていたのには本当に頭が下がる思いです。これは古谷さんだけでなく他の声優さんについても同じで、キャラクターのイメージを崩さないように演技をしてくださっている。自分自身のことは大概よくわかるものだけれど、自分の声だけはよくわからないですよね。「俺はこんな声だったのか」みたいなね。それをコントロールして、それで勝負しているわけだから、それは大変な苦労だろうと思います。

――古川登志夫さんがカイ・シデンの演技で安彦さんに怒られたと言っていましたが。
安彦 そんなわけないんだよね(笑)。ちょっとしたNGを出しただけでね。古川さんは収録のトップバッターで、単独録音だったからニュアンスの違いを説明しただけです。僕なんかアフレコ現場では完全なお客さんですから、怒れるわけないじゃないですか(笑)。録音監督の藤野(貞義)さんにおまかせですから、ほとんどは何も言うことはないんですけど、僕と藤野さんでも注文は完全に同一ではないから、たまには違うなと思うこともあります。そのときはそのたまたまで、録音ブース内に入ってお話をしたということですよ。

声優さんの声について、これは古谷さんのお話とは違うんだけど、池田秀一さんの声は不思議だなと思うことがあります。池田さんって普段は親父声というのかな(笑)、野太い声で「この人がシャア?」って思うんだけど、画面に乗せると不思議とシャアなんだよね。古谷さんは当時をそのまま保っているというか「あ、古谷さんキター!」っていう感じですよね。おそらくかなり練習もしてくださっているんじゃないかなと思います。古谷さんの声は本当に特徴的で、ナレーションをされていても耳にするとすぐにわかるくらいですよね。声に鈍感な僕にでも。

――最後に、アムロ・レイを描くときのコツみたいなものはありますか? こうすればアムロ・レイに似せられるという技術的なコツについて教えていただきたいのですが。
安彦 アムロっぽさ……本当にお恥ずかしいことなんですが、このときの絵は違うなとか言われると何も言うことはないんですけど(笑)。これはアムロに限らずですが、僕のキャラを僕が描いているんだから正解のはずなんだと思ってあとで見返すと、じつはだいぶ違うということはあるんですよ。アムロっぽさというのは髪型もあるんですけど、やっぱり目つきじゃないかな。あの暗い目つきというのか、三白眼的な目元にこそアムロっぽさが出るんじゃないかと思います。

ただ、こういうのはその絵を描くタイミングで変わってくるものだから、これだというコツはないんです。面長にしすぎないこと、逆に丸顔にすると童顔になってしまうことが注意点と言えるかもしれないけど、15歳という年齢は環境によって表情も変わってくるものですからね。アムロはとくにいろいろな年齢のデザインが存在するから、ちょっとバランスを崩すと違って見えてしまうというのはあるのかもしれません。まあ、これだけ目元が特徴とか言っていても、目の色が青か黒かわかっていないんですから、説得力があるかどうかはわかりませんけれどね(笑)。endmark

古谷徹からのメッセージ

安彦さんのお話、知らないことが多くて、じつに興味深かったです。「アムロは完全に外国人である」という認識は、僕の中ではなかったんですよ。セリフは日本語だしね(笑)。赤茶色の髪の毛で目が青い――アニメでは黒いけど、そういう意識をされていたというのは考えもしなかった。

あとは、安彦さんもそれまでのロボットアニメのヒーロー像に飽き飽きしていて、まったく違うものに挑戦したいと思っていたというお話は、まさに自分と同じ考えだったので驚きました。富野監督も同じようなことをおっしゃっていたけれども、やはり皆さん同じ考えを持っていたんだなというのは本当にうれしいことです。そういう皆さんの情熱が結集したからこそ、あれだけの傑作が生まれたんでしょうね。安彦さんのお言葉にあった「阿吽の呼吸の現場」というのはしっくりくるし、とても共感できました。

僕のこともすごく褒めてくださって、うれしかった。電車でのお話は僕もよくおぼえていますけど、ちょうどこの時期はウィンドサーフィンに凝っていたから日焼けしていたんですよね。第一声がやっぱり星飛雄馬だっていうのはちょっとショックだなあ(笑)。でも、それだけ僕の声を認知してくださっているというのはうれしいことです。

クワトロ・バジーナの腕の色とかね、そんなことがあったのかと(笑)。こういう細かいことを安彦さんとお話する機会もなかなかないですから、僕にとっても興味深いお話でした。

安彦良和
やすひこよしかず 1947年生まれ、北海道出身。アニメーター、イラストレーター、アニメ監督、マンガ家と多方面で活躍するマルチクリエイター。サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)を中心に数多くの作品にキャラクターデザイナー、作画監督、アニメーションディレクターとして参加。自身の監督作品も多く、代表作として『ヴィナス戦記』、『アリオン』、『巨神ゴーグ』などがある。2001年から連載が開始された『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は累計発行部数1,000万部を超える超ヒット作となった。
古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。
作品情報

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』

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