好きな楽曲を聞いて思ったことは、なぜか前向きにいろいろな人に話せる
――連載第1回の撮影と取材を行ったのが去年の8月末でした。もうすぐ1年になりますが、ここまでを振り返って、今の心境を聞かせてください。
伊達 最初に連載のお話をいただいたときに、こんなに続けさせていただけるとは思っていませんでした。「連載」とは聞いていたけれど、年単位のものになるとは思っていなくて。ラジオや配信番組などで、私が心の中でどう思っていたかをお話させていただくことはあります。でも、自分で語る以上、真剣に伝えたいことだけれども、どこか照れがあって難しい、みたいなこともあって。だからこの連載で、深掘りしていただいた文章と楽曲を通じて皆さんとつながれることを続けてこられたのがすごくうれしいです。長く続けると、話したいことがなくなってしまうのでは、と思っていたのですが、むしろ逆で。「次はこんなことをお話したいな。こういうこともお話してみたいな」という気持ちがどんどん出てきたので、自分でも新鮮でした。
――各回のテーマは伊達さんにおまかせしていますが、とくにマネージャーさんと相談したりするわけではなく、ひとりで考えているのでしょうか?
伊達 そうなんです。第10回までの間で、1回か2回だけ「どっちがいいと思いますか?」と相談したことはありましたが、基本的にはほぼ自分で決めさせていただいています。
――いつもわりと悩みながら決めているのでしょうか?
伊達 時間はかけますが、悩むという感覚はないですね。選ぶのがすごく楽しいので、たくさんの選択肢の中から楽しみながら悩んでいる、という感じです。あとは、なるべく楽曲のテンション感が前の回とあまり被らないようにしたいとは思いながら選んでいます。たくさん服がある中から「今日はどれを着ようかな?」と考えるような感じで、いつもワクワクしながら選んでいます。
――じつはこちらから連載企画を提案しとき、テーマは「音楽」に限定していなかったのですが、ここまでずっと音楽の話題が続いているのは、何か考えがあるのでしょうか?
伊達 最初に「音楽や映画、ドラマなど、お気に入りなら何でもいいですよ」と言っていただいて、私の中でとくにお話したい、といちばん心がおどったのが音楽でした。
――小さい頃からいちばん親しんでいて、自身の養分になっているものだからでしょうか?
伊達 そうですね。本を読んだり、映画を見るのも好きなのですが、好きな楽曲を聞いて思ったことはすごく前向きに、いろいろな人に話せるんです。人によっていろいろな感想が出てくるのは音楽以外でも一緒だと思うのですが、たとえば映画だと、なぜか「この映画を見て私が思ったことは間違っていないかな?」と考えて、誰かと語り合いたいという自信がなくなってしまうんです。それが音楽だと「こう思った!」と語るのが楽しく感じられて。自分でも不思議なのですが。
第1回 仕事を始めてから「刺さる」ようになった 山本彩さんの「JOKER」
――ここからは過去の連載を振り返りつつ、未公開カットから1点ずつお気に入りを挙げてもらいたいのですが、第1回のこの写真はどういった思いで選んだのでしょう?
伊達 連載最初の撮影で、ぎこちない笑顔が多かったのですが(笑)、この写真は色合いも相まって悩んでいるというか、狭い空間にいてどこにも出られない状態のように見えて、それが撮影時の気持ちと非常にリンクしているように感じました。「手さぐりの旅」というタイトルなので、前を向いて旅に出たいけれど、悩みや不安があって前を向けていないような雰囲気がありますし、影が多かったり、青みが強くて自分の顔があまり写っていないところからも、素の自分を見せていないイメージがありますね。
――なるほど。他にこの回で印象に残っていることはありますか?
伊達 撮影場所が新宿歌舞伎町の近くで、別の場所で着替えとヘアメイクをしていただき、スタッフの方と移動したのが、すごく楽しかったです。今まで着たことのないようなテイストのお衣装や高い位置でのツインテール、派手めのメイクをしていただいて、その状態で日傘で顔を伏せながら歩くのが、なんだか映画のワンシーンのようでワクワクしました。履き物もヒールが高くて、なんだか「自分じゃない自分」になった気持ちを歩きながら味わっていました。
第2回 学校生活を思い出して自己投影してしまう SHISHAMOさんの「中庭の少女たち」
――第2回は、3331 Arts Chiyoda(現・ちよだアートスクエア)での撮影でした。
伊達 第2回でお気に入りの写真は、机の上でパンを食べようとしている写真です。この回は撮影中に他にもいくつかパンをいただいたのですが、これは「いいんですか!」と言いながらパンの袋を開けているところで、全然「写真に写る」ことを意識していない顔なんですよね。「私って、パンでこんなに喜んだ表情をするんだ」と思いました(笑)。撮影されるときはもちろん、自分なりに表情を意識しているのですが、この写真はすごく自然体です。「学生時代」がテーマだったので、高校生のときに売店でパンを買って友達と一緒に食べていたときを思い出して、もしかしたら、こんな風に私の姿が見えていたのかな、と思いました。
――この回は、後の連載にも何度か出てくるカメラが初登場でしたね。
伊達 建物の外でカメラを構えているときに鳩が出てきたのですが、オフショットとして紹介していただいたときの「餌がもらえないとわかるとすぐに去っていく」という文章がすごく面白かったです(笑)。この施設には緑もありますが、都会のど真ん中にある学校で、子供の頃に見ていたドラマの世界みたいだなと思いましたし、もし、小さい頃から通っていたら、同じ場所、同じポーズで写真を撮ってもらっても、まわりの景色を見て思うことは違うんだろうなと感じました。それがなんだかとても感慨深いというか。逆に、自分が通っていたところよりも自然がたくさんある場所で育っていたらどういう気持ちだったんだろうな、とも思ったり。自分が生まれ育った環境ではできない体験をしてきた人がいることが、なんだかすごくうらやましく感じました。
第3回 ためらいがちな自分の背中を押してくれる スキマスイッチさんの「トラベラーズ・ハイ」
――第3回で選んでもらったのは、本編にも登場した木に登っているカットの一枚です。
伊達 まず、これだけ高いところに登っていたんだよ、ということを伝えたかったんです。冒険している感がすごくあるというか。子供の頃は木登りをするのがとても好きでした。鳥になった気分になれるというか。木に登っている人を見ていると、どこか動物っぽく見えてくるんですよね。自分もあんな風になりたい、と憧れる気持ちもあって、木に登るのは好きでした。珍しくまわりの誰よりも背が高くなって、すごくいい気分になっている写真ですね(笑)。
――下で見ている側は「大丈夫かな」と少しハラハラしていました。
伊達 めちゃめちゃ楽しかったです(笑)。あと、小さい頃の話でいうと、自由帳などにお家のイラストを描いたり、秘密基地の外観や部屋の間取りを描くのがすごく好きだったんです。秘密基地は家の中で何回も作った記憶があります。それはいつも日曜日で、お休みの両親の布団を全部剥がして、枕などと組み合わせて、かまくらみたいな秘密基地を作るんです(笑)。このときに撮影したのは、それを思い出すような場所でした。
――眼鏡をかけてもらったのは、今のところこの回だけですね。
伊達 そうですね。この回のインタビューで「眼鏡姿が恥ずかしい」というような話をさせていただいた記憶があるのですが、それは今でも変わっていないですね。自分の中で、朝起きて、コンタクトレンズを付けることでスイッチが入るような部分があって。だから度が入っていなくても、眼鏡姿だと家の中での素の自分を見せているようで、恥ずかしくなってしまいます。でも、眼鏡姿を好きだと言ってくださる方もけっこういて、そんな風に言っていただけるのが信じられない気持ちもありつつ、うれしかったです。
- 伊達さゆり
- だてさゆり 9月30日生まれ。宮城県出身。Apollo Bay所属。『ラブライブ!スーパースター!!』一般公募オーディションを経て、澁谷かのん役で声優としてデビューを果たす。他の出演作に『英傑大戦』(池田せん役、巻姫役)『アサルトリリィ Last Bullet』(石塚藤乃役)など。趣味は歌を歌うこと。特技はよさこい。 Twitter/@SayuriDate Instagram/sayuridate_official