過去の自分が今の自分を助けてくれるようになった
――中編で歌詞にまつわる話を聞きましたが、他に好きなフレーズはありますか?
伊達 自分とリンクしているかと言われると、ちょっとわからないんですけど、一番のサビの「もっと正直になりたい/ほんとうの私」という箇所がすごくかわいいと思っていて、そこがお気に入りですね。サビの最後に弱みを見せているのが好きです。
――直前で「だけどそんな装備はないから/素肌で戦うしかない」と思いきったあとなので、より印象的ですよね。伊達さんも「不安だけど、もうやるしかない」という気持ちになることが多いのではないかと想像するのですが。
伊達 「やるしかない」とまで思いきれなかった時期もありましたね。練習しても練習しても、今の自分には納得できるかたちに仕上げられないなと思っている間に本番の日がやってきて、なんとかテンションで乗り切ろうとするんですけど、やっぱり自分の実力不足を受け入れざるを得なくなって、どんどん気持ちも落ち込んでいく……といったことはありました。
――その「落ちていった気持ち」が何かのきっかけで底を打って上昇していくことはあるのでしょうか?
伊達 基本的にすぐにポジティブにはならないんですけど、あとから思い出して「あのときはつらかったけど、テンションとか気合いで乗り切れたじゃん」と思うことでプラスになるというか。そういう考え方ができるようになってきました。
――経験というか、過去の自分が助けてくれる。
伊達 そうですね。今でもはっきりと自信を持ってお芝居やパフォーマンスに臨めることは少ないんですけど、「あのときに比べたら、今のこの悩みって大したことなくない?」と言い聞かせられるようになってきた気がします。
着ぐるみを外してくれる「優しい手」の存在
――この楽曲の最後には「優しい手」が出てきて、着ぐるみの頭を外してくれますよね。これは「なんでも打ち明けられる存在」のメタファーのようにも思えるのですが、そういう存在は伊達さんのまわりにいるのでしょうか?
伊達 その相手のために「全部は言わないほうがいい」ということもあったりするので。それは聞いてくれている相手の悪口とかじゃなくて「私ってこの物事に対してこういう風に思っているんだよね、じつは」と口にすることで、相手に心配をかけてしまいそうだから。そう考えると、とにかく何でも言ってしまえる相手というのはいないかもしれません。ただ、東京に来た当初、家族にはやはりいろいろなことを聞いてもらっていました。
――なるほど。
伊達 とくに母にはよく話していましたね。でも、母は母で、私と同じ仕事をしているわけではないし、私本人でもないので、考え方にどうしても差が出てくるんですよね。お仕事の悩みを打ち明けてみても、理解しようといろいろ考えてくれても、どうしてもわからない部分があったり。そういうやりとりを重ねていくうちに「これは話さないほうがいいかな」と話題を選ぶようになっていきました。私も話していて、思い出すほどに気持ちがどんどんあふれてしまって、いっぱいいっぱいな状態になるのがつらいなと思ったんです。
このインタビューでの「着ぐるみに入っていた度」はどれくらい?
――「着ぐるみの頭を外す」というフレーズから、パフォーマンスを終えたあとのようなイメージも思い浮かんだのですが、実際にステージを降りてこれをやると「仕事を終えたな」と思うことはありますか?
伊達 私の場合は、メイクを落としたときですね(笑)。あとはコンタクトレンズを外したときや、お風呂に入ったあととか。そうなるともう完全にひとりの状態になるので、ホッとして「終わったな~」という気持ちになります。
――まさに「着ぐるみの頭を外す」ような感覚ですよね。そういうときにまずやりたくなることはありますか? これが食べたくなる、とか。
伊達 しょっぱいものを食べたくなりますね。必ず食べるわけではないのですが、手に入るときはとにかくしょっぱいものをたくさん身体に入れます。好きなんです(笑)。
――では、最後にこのインタビューで「着ぐるみに入っていた度=思っていたことを隠さずに言えた度」はどれくらいですか?
伊達 あはは。そうだな……85%くらいですかね。
――前回に続きまた「85」が(笑)。
伊達 たとえば、家で母と話していたら、もっと言葉遣いや単語がラフになっていたと思うんですよね。その分を15%として引かせていただきました。
――内容に関しては素直に答えてもらえたということですね。
伊達 そうですね。毎回、このパーセンテージは変わっていないと思います(笑)。