TOPICS 2025.11.28 │ 12:00

『ガンダムW』の魅力を現代に伝えるために 監督・岩澤亨が取り組んだ王道の画作り①

発表から瞬く間に評判となり、現在(11月28日時点)までに約600万回近く再生されている『新機動戦記ガンダムW(以下、ガンダムW)』の30周年記念映像『-Operation 30th-』。この映像の監督を務めたのは、『Fate』シリーズや『葬送のフリーレン』への参加で知られるアクションディレクター/作画監督の岩澤亨氏だ。『ガンダムW』という根強いファンを抱える作品を現代によみがえらせるためのこだわりとは? 前編では、ガンダムシリーズとの出会いと『ガンダムW』の魅力を話してもらった。

取材・文/森 樹

作品が持つ「戦争もの」としての解像度の高さ

――最初に触れたガンダムシリーズを覚えていますか?
岩澤 最初は兄が見ていた『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』だったと思います。それから中学生のときに『機動戦士ガンダム00』の放送が始まって、高校生のときに『機動戦士ガンダムUC』という流れでした。中高生のときにはガンダムのゲームも遊んでいましたし、『機動戦士ガンダム』をレンタルして順番に見た時期もありましたね。

――『ガンダムW』を初めて見たタイミングは?
岩澤 宇宙世紀の作品から見ていったので『機動戦士Vガンダム』が終わったあと、「オルタナティブ」作品としては『機動武闘伝Gガンダム(以下、Gガンダム)』を初めて見ました。僕は『Gガンダム』がすごく好きでハマってしまって、その流れで『ガンダムW』 も『機動新世紀ガンダムX』も見ました。ただ、『ガンダムW』の当時の印象は、硬派でファーストの雰囲気がありつつも、当時の自分には「若干難しいな……」と感じていて。

――物語が複雑ですよね。
岩澤 『Gガンダム』がシンプルな話で、そこが好きだったこともありますね。『ガンダムW』のような軍事もの、世界大戦ものが面白いと思うようになったのは、ここ最近かもしれません。あらためて見直したときに、作品が持つ「戦争もの」としての解像度の高さを理解したように思います。

――そうしたガンダムシリーズを履修していたことが、岩澤さんの今のお仕事につながるところはあるのでしょうか?
岩澤 もともとマンガが好きで絵を描いていたので、マンガ家かアニメ関係の仕事は自然と選択肢に入っていました。高校時代にはアニメーターになりたい知り合いもいたり、実際にアニメーターになった先輩もいたりして。とはいえ、職業として意識し始めたきっかけのひとつにガンダムシリーズもあったと思います。

「空気を壊さないアニメ作り」が徹底されている

――岩澤さんが思うガンダムシリーズの魅力は、どういった部分でしょうか?
岩澤 シリーズ全体のコンテンツ力がとてつもなく大きいと思いました。ここまで続いているシリーズがそもそもあまりないじゃないですか。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』や『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』を見ていても、本当にファン層が幅広くて。

――たしかにそうですね。
岩澤 しかも、ひとつひとつのテイストも大きく違う。それぞれのシリーズに色があって、これだけの作品数があること自体が魅力になっていますよね。その中で『ガンダムW』はキャラクターにとにかくインパクトがある。メカのデザインも素晴らしいですし、映像や音も魅力的ですが、それらがキャラクターと組み合わさったときの相乗効果のすごさを感じます。

――まずキャラクターとしての強さが魅力になっていると。
岩澤 ヒイロたち主人公5人だけじゃなく、ライバルも含めてどういうキャラクターなのかがすぐに把握できるのが良いですよね。近年のアニメ作品も、キャラクターが強い作品は人気が出ることを考えると、『ガンダムW』は見事なバランスだと思います。

――メカアクションの部分はどういう特性があると思いますか?
岩澤 アクションの部分で言えば、『Gガンダム』がさまざまなアイデアを取り入れた作品で、『ガンダムW』は兵器としての戦いをしっかりと意図しているように思います。『Gガンダム』がすべて専用機のような扱いに対して、『ガンダムW』ではヒイロが顕著ですが、自分の機体はあるけれどあまり乗らない(笑)。

――乗らないし、爆破させたり、捨てたりもする。
岩澤 本来はガンプラを売らなきゃいけないアニメですから、アクションをさせるほうが良いわけです。だけど、『ガンダムW』の場合は、ヒイロたちが戦いに介入せざるを得ない状況があり、そこで兵器としてはじめてガンダムが使われる。物語があって、そこにちゃんとアクションが乗っているんです。キャラクターは突拍子もないことをしますし、メカも演出自体は派手ですが、戦闘としては真っ当な描かれ方をしていると思いますね。

――たしかに、機体の特徴に合わせたアクションや攻撃がすべてのベースにありますね。
岩澤 キャラクターたちは崖から落下したりしていて、そんなことしていいの?みたいなことが多い印象ですが(笑)。本来は、メカのほうがそういうことをさせやすいはずなんですよ。

――OVA/劇場版の『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz(以下、エンドレスワルツ)』では、そうした見せ方を踏襲しながらも、メカのアクション部分を強化したイメージがあります。
岩澤 そうですね。『エンドレスワルツ』はカッコいいメカアクションを取り入れていて、もともと目指していた表現に近づいたのかなと思いました。インパクトはありますが、必要最低限の描写しかしていないのが逆にスマートで。ここで言う必要最低限というのは段取りのことで、メカもキャラクターも今何をしているかがわかりやすくて、動きを丁寧に追えている。カットの切り替えもそこまで早くないし、整っている。

――きっちりとカットが構築されていると。
岩澤 「空気を壊さないアニメ作り」が徹底されていた時代の作品だと思います。現在のアニメはどんどん派手になっていく傾向があるので、見習わなければいけない部分だと思いますね。endmark

岩澤亨
いわざわとおる アクションディレクター/作画監督。『-Operation 30th-』においては、監督・絵コンテ・演出を手がける。近作に『takt op. Destiny』『葬送のフリーレン(第1期)』(アクションディレクター)、『チ。―地球の運動について─』(OPディレクター)など。
中編(②)は12月1日(月)公開予定
作品情報

Dolby Cinema®版『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』11月28日より1週間の再上映が決定!

原作:矢立肇 富野由悠季 
監督:青木康直
声の出演:緑川光 関俊彦 中原茂 折笠愛 石野竜三ほか
配給:バンダイナムコフィルムワークス

さらに「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇 4KリマスターBOX」が2026年3月25日(水)に発売!
30周年記念映像『新機動戦記ガンダムW-Operation30th-』も映像特典として収録。
<4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc>
価格:¥11,000(税込)
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

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