TOPICS 2025.12.01 │ 12:00

『ガンダムW』の魅力を現代に伝えるために 監督・岩澤亨が取り組んだ王道の画作り②

発表から瞬く間に評判となり、現在(11月28日時点)までに約600万回近く再生されている『新機動戦記ガンダムW(以下、ガンダムW)』の30周年記念映像『-Operation 30th-』。この映像の監督を務めた岩澤亨氏に聞くロングインタビュー2本目では、3分の映像を制作するうえでのコンセプトや工夫について細かく話してもらった。

取材・文/森 樹

後半にかけて新規映像へと展開していく構成

――当時のスタッフではない岩澤さんが今回の記念映像を制作するにあたって、どのようなコンセプトを立てたのでしょうか?
岩澤 基本的な映像の流れとしては、TVシリーズ後半のオープニングをベースとしています。そこに加えて、メカがカッコよく見えるカットを作ろうと考えていました。具体的な発注としては「当時に負けない新しさとパワーがあり、当時を思い起こさせるもの」でした。

――スタッフィングはどのように進めたのでしょうか?
岩澤 大半はお任せしましたが、撮影監督の脇顯太朗(わきけんたろう)さんはこちらからの要望です。過去のセルの映像にも、最新の映像表現のどちらにも対応できるのは脇さんしかいないだろうと。あとは『ガンダムW』と言えば……という方は外したくなかったので、キャラクターデザインはあさぎ桜さん、主題歌はTWO-MIXさんにお願いしました。

――制作された映像を振り返っていきたいのですが、冒頭は過去の映像が映されつつ、30周年記念ロゴが表示されます。
岩澤 冒頭のロゴが表示されるまでのパートは、10GAUGEさんが制作しています。

――アニメ映画の予告編やオープニングなどを数多く担当している映像制作会社ですね。
岩澤 そうです。最初に映像が発表されるのがサンディエゴでのイベント(コミック&エンタメ コンベンションSDCC⦅サンディエゴ・コミコン⦆)だと聞いていました。なので、いきなり本編のムービーに入るよりもダイジェストを入れて「なにか『ガンダムW』の発表があるのかな」とワクワクしてもらえればと思い、後半にかけて新規映像へと展開していく構成にしたんです。

――冒頭の映像制作はどのように進んだのでしょうか?
岩澤 映像のセレクトは、編集の重村建吾さんが担当されています。『ガンダムW』を第1話から見直しながら「この映像はどうですか?」とバリエーションを出していただき、そこから10GAUGEさんに素材データを渡して、編集していただく流れでした。最初のヒイロのポーズや、締めくくりのヒイロが雑踏の中に消えていく場面などはこちらから指定しつつ、30周年ロゴのモーションや羽根が舞うアニメーションは10GAUGEさんが作ってくださっています。

『Frozen Teardrop』に該当する部分は新しい処理を

――そこから本編に入っていきますが、ヒイロとリリーナが水の中に落ちていく演出がまずありますね。
岩澤 小説『Frozen Teardrop』の要素を映像化するのも今回のテーマのひとつでした。『Frozen Teardrop』の冒頭は、ヒイロもリリーナもコールドスリープしているところから始まるので、そこをリンクさせようという意図もありました。本編でも、第1話で海底に落ちたウイングガンダムを引き上げていたり、ヒイロが水の中に沈むシーンもあったりで、水がところどころ印象的な使われ方をしています。もうひとつ、『ガンダムW』自体が30年前の作品なので、そこから再浮上させようという意味もあります。

――アディン・ロウや竜妹蘭(ロン・メイラン)など、『Frozen Teardrop』のキャラクターをどのように入れ込もうとしたのでしょうか?
岩澤 『ガンダムW』の30周年なので、TVシリーズと『エンドレスワルツ』をメインにすることは決まっていて、『Frozen Teardrop』の要素はアウトロ(曲や映像の終わり)に少しだけ入れようと決めていました。ただ、尺的にも物語そのものを深く掘り下げることはできないので、キャラクターの掘り下げ部分のみ採用しようと思い、設定として印象的なアディン、妹蘭を入れ込んだという感じです。

――中盤から、画角自体もワイドになります。
岩澤 そうですね。上下の帯も差別化の一環ではあります。映像としては、『ガンダムW』の先の可能性を示唆しているものにしようと。実質的には『Frozen Teardrop』の映像化とも異なるかたちになっているので。

――5機のガンダムタイプも「クロークドカスタム」として登場しますね。
岩澤 謎の機体が登場するとファンが沸きますよね。アディンや妹蘭もそうですが、「この人って誰だろう?」「この機体の正体は?」となったときに、いろいろな考察とかがSNSで盛んになったら良いなという狙いもありました。

――SNSで探せばすぐに情報が出てくる時代ですからね。
岩澤 そうなんです。それが盛り上がりにつながればいいですし、『Frozen Teardrop』を新たに知っていただける機会にもなるのではないかなと。アディンはヒイロの出生に関わる人物ですし、妹蘭も五飛(ウーフェイ)が自分のガンダムを「ナタク」と呼んでいる理由につながるキャラクターですが、TVシリーズ本編で描かれなかったところを補完するかたちで取り上げました。

――本編とのつながりが強い部分ですよね。
岩澤 そうすれば、TVシリーズや『エンドレスワルツ』からも完全に切り離されることなく映像化できるのではないかと。

――モビルスーツも、あえてマントを被せることで期待感を煽るものになっていますよね。
岩澤 「サーベルの色が違う!」とか「サンドロックみたいだけど、両手にショーテルじゃない何かを持っている!」「これは何なんだ!」みたいな、いろいろな反応もあったようでなによりです。

――後ろに気球が浮かんでいるのも気になりました。
岩澤 あれはカッパドキアをイメージしています。この場所のシチュエーションは隅沢(克之)さん(『ガンダムW』シリーズ構成、『Frozen Teardrop』著者)に決めていただいたものですね。火星にするとすべて同じ風景になってしまうし、なによりこれはマーズスーツではない。そこで隅沢さんに「このキャラはこの場所かな?」とアイデアをいただきました。サンドロック改クロークドカスタムの場合、「後ろに気球が浮いていると面白い」と書いてあり(笑)。シュールだし、意味深だけど、ビジュアルが楽しい。それも『ガンダムW』っぽいというか、作品を牽引している隅沢さんならではのアイデアだと思いましたね。endmark

岩澤亨
いわざわとおる アクションディレクター/作画監督。『-Operation 30th-』においては、監督・絵コンテ・演出を手がける。近作に『takt op. Destiny』『葬送のフリーレン(第1期)』(アクションディレクター)、『チ。―地球の運動について─』(OPディレクター)など。
後編(③)は12月2日(火)公開予定
作品情報

Dolby Cinema®版『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』11月28日より1週間の再上映が決定!

原作:矢立肇 富野由悠季 
監督:青木康直
声の出演:緑川光 関俊彦 中原茂 折笠愛 石野竜三ほか
配給:バンダイナムコフィルムワークス

さらに「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇 4KリマスターBOX」が2026年3月25日(水)に発売!
30周年記念映像『新機動戦記ガンダムW-Operation30th-』も映像特典として収録。
<4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc>
価格:¥11,000(税込)
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

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